認知症の男性が線路内に立入り、列車に跳ねられて死亡した事故を巡り、鉄道会社が家族に損害賠償を求めていた裁判において、3月1日最高裁判所は家族の賠償責任を認めない判決を下した。一審・二審ではともに家族の賠償責任を認めていた。

一・二審ともにJR側が勝訴

 この事件は、2007年12月7日、愛知県大府市で発生したもの。認知症の男性が徘徊をし、JR東海(以下・JR)の線路内に立入り、列車と衝突して死亡した。JRは、この男性と同居していた妻に対して「徘徊を防止する監督義務を怠った」として、列車の遅延により生じた金銭的損失の720万円の支払いを求める訴えを起こした。

 名古屋地方裁判所はJRの主張を全面的に認め、妻のみならず別居中の長男にも監督義務があるとして請求通りの支払いを命じた。二審の名古屋高等裁判所は、長男に対する請求は退けたものの、妻に対して請求額の半分に当たる320万円を支払う様に命じた。妻・JRともにこの判決を不服として上告し、最高裁にその判断が委ねられていた。

 この一審・二審の判決に対しては、介護業界などから「家族の責任が認められるのなら、家族は1秒も目を離すことなく不眠不休で監視しなくてはならない。それは現実的に不可能」など、反発の声があがっていた。

 判決を控えた2月22日には、NPO法人日本ソーシャルワーカー協会や公益社団法人日本社会福祉士会など7団体が連名で、「一審・二審判決によって、家族が在宅で介護することを忌避し、入院や入所を促進してしまう。高齢になっても住み慣れた場所で生活する、という地域包括ケアの理念に逆行する判決を容認することはできない」との声明を発表していた。

社会の損失防ぐシステムが必要

 今回の最高裁判決について、介護業界からは概ね好意的な意見が寄せられている。

「遺族に敬意表す」 公益社団法人認知症の人と家族の会(京都市)

 これまでも判決の度に、それを批判する見解を発表してきた公益社団法人認知症の人と家族の会(京都市)は「法律が認知症の実態と家族の困難を理解した結果でしょう。それとともに『こんな判例を残したら全国の家族に申し訳ない』と闘ってくれた遺族に敬意を表します。これからは徘徊で損害が発生した場合の社会的救済制度に取り組みたいと思います」との高見国生代表理事のコメントを発表した。

「請求例は他にも」

 介護者の支援を行っているNPO法人介護者サポートネットワークセンター・アラジン(東京都新宿区)の牧野史子理事長は「個人的意見」とした上で「介護者の中には今回と同様に、鉄道会社から損害賠償を請求されたり、実際に支払ったりしている例もあります。家族の介護をしている人は『私がやらなくては』と自分に責任を感じ、自分を責めていることが多くあります。もし賠償金まで課せられたら、介護者はますます追いつめられてしまいます」と、今回の判決を評価した。

「救済制度が必要」

 公益社団法人日本認知症グループホーム協会の監事でもあるNPO法人ヒューマン・ワークス(大阪府箕面市)の中垣内吉信理事長は「今回の判決を支持する」としながらも「今回のような予期せぬ事故は今後も起こりえます。それを考えると、事故の損害を賠償する保証を介護保険の中で行うなど、認知症高齢者を守るとともに社会の損失を防ぐような救済システムの構築が必要ではないでしょうか」とコメントした。

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