地域包括ケア実現に向け、高齢者が自分らしく在宅生活を送るための多職種連携が重視されるなか、作業療法士(以下・OT)の果たす役割が注目されている。一般社団法人日本作業療法士協会(東京都台東区)の中村春基会長にOTが果たす役割について話を聞いた。

──介護保険の動向については。

中村 介護の枠組みが語られる際、効率的な介護体制による介護保険費の抑制も必要ですが、もっと「その人らしい生活を守る、とは何か」という視点で考える必要もあると思います。
 例えば山間地で農業を営むことが、当事者にとって「有意義で幸せな暮らし」を指すこともあります。効率化の観点だけで住む場所を移したり、介護サービスで「つくられた趣味」を一方的に与えたりすることは、その地域ごとの本来のコミュニティや互助機能を壊しているのではないでしょうか。

──具体的には。

中村 例えば、鹿児島県鹿野市にある柳谷集落「やねだん」では山間地域にある農村の住民主体で名産品の販売を行い自主財源の確保、地域再生に繋がりました。互助の力とはこのように発揮されるものです。
 介護する側の都合で人を集めるのではなく、支援する側が相手の住んでいる地域に入っていって「その人らしい生活」を支える支援のあり方が議論されるべきではないでしょうか。

──介護現場におけるOTの役割とは。

中村 足腰が弱ったり手指が動きにくくなったりするなど、生活を困難にしている要因を見極め、それを取り除く支援がOTの担う役割です。
 OTの仕事というと、手指の動かし方の指導を通じたリハビリのイメージが強いと思われます。しかし、それは1つの手法で、OTの仕事の定義は「生活能力の向上」です。例えば、リハビリや自助具を駆使して、買い物ができないという1つの障害を解決したら、次は調理ができる可能性を考えるなど、当事者が望む生活に近づけるための支援を行っています。

──ツールがあると聞きました。

中村 当協会では医療から介護に関わる全てのOTが、生活能力の向上に職能を発揮するために「生活行為向上マネジメント」を開発しました。本人の実現したい生活行為を聞き取り、その実現に向けて課題を分析し、支援計画を立て、その評価と生活支援に必要な方法をシームレスに共有するための枠組みです。
介護が利用者にサービスを「与える場」になってしまい、介護サービスへの依存度を高めているのではないかと感じることがあります。本当の意味でのケアとは、利用者が生活能力に衰えを感じたときに手伝い、生活能力を改善・向上へと導くことができた段階で、関与を徐々に減らして行くことではないでしょうか。これが自立支援の本来の考え方であり、OTの存在意義だと考えています。

──OTの評価手法については。

中村 イギリスではOTのレベルが8グレードに分かれて評価されています。高グレードのOTは単なるトレーニングとしてのリハビリ指導だけでなく、行政との均衡や日常生活動作を行いやすくするための自助具のマネジメントなどを行っています。役割として担う範囲が広く定められており、地域資源を知り、それをマネジメントすることが担保されているのです。
 日本のOTも同様の評価ができればと考えています。岡山県倉敷市ではOT出身の事業者が行政と調整して、リハビリに農業を取り入れています。生活動作のトレーニングの機会と場所を作り出して高齢者を社会参加につなげていく方法はOTの職能の更なる発揮の形として、注目されています。

──今後については。

中村 リハビリの先に、その人が「何ができるようになるか」を見据えてコーディネートする役割を目指していくとともに、介護現場を「その人らしい生活」を実現するための「学習の場」に転換し、利用者が介護サービスを卒業できるように、生きがいや社会との接点を見い出すための支援をしていきたいと考えています。

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