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---点検介護保険--

介護保険制度が「給付削減、負担増」に走り出した。保険者にも費用抑制の手立てが講じられ、2018年度から始まった「保険者機能強化推進交付金」がその第一弾。別名「インセンティブ交付金」と呼ばれる。高齢者の自立支援・重度化防止等に取り組んだ自治体に、国が報奨(インセンティブ)として交付金を渡す。200億円の財源は税金だ。

評価項目は、「地域密着型通所介護で機能訓練・口腔機能向上・栄養改善を行っているか」「医療・介護関係者間の情報共有ツールを整備しているか」「通いの場への参加率はどの程度か」。認知症支援策や生活支援体制の整備、介護給付の適正化などにも及ぶ61項目だ。ほとんどで満点が10点。中には「25年度の認知症高齢者数を推計しているか」の2点満点などあり、全項目満点だと612点になる。

項目の大半は自治体の自己評価とはいえ、お金で自治体を特定の方向に誘導する狙いだ。「介護保険は地方分権・地方自治の試金石」という原則に反する中央集権的手法に異論もあるが、さらに「情報公開」の問題も引き起こしている。

17年6月9日に閣議決定した「骨太方針」でインセンティブ交付金について「介護費や認定率の地域差や個別の自治体の取組を『見える化』するとともに、好事例の全国展開を図る」と明記した。「見える化」することで、高得点の市町村の評価内容が分かり、その好事例を他市町村に学ばせようと図った。

介護保険の改正法を審議する社会保障審議会介護保険部会でも「評価については各市町村、都道府県毎に、住民も含めて公開することとし、成果を他の地域と比較することによりPDCAサイクルに活用する」(16年12月9日の「介護保険の見直しに関する意見」)と評価公表の意図を記した。

そして、18年度の評価点と交付金額が今年の初めまでに厚労省から全自治体に知らされた。ところが、個別の市町村の評価点数などの結果は公表されていない。厚労省は各都道府県には域内の市町村の評価結果を伝え、都道府県から個別の市町村ごとに知らされた。従って、市町村は全国の市町村の中でどのくらいの順位なのか、他市町村の項目ごとの配点などさっぱり分からない。

骨太方針で謳われた「好事例の全国展開」を市町村が目指そうにも、肝心の「好事例」がどの市町村なのかが公表されなければ手のつけようがない。非公表策は、交付金の考え方を否定するようなものだろう。政権の基本政策に逆行する。

担当の厚労省老健局介護保険計画課は、非公表にしている理由について「物議をかもすようなことはしたくない。でも、自治体が独自に公表することを妨げてはいない」と責任逃れの立場をとる。

ただ、自治体の中には筋を通すところも現れた。横浜市は3月に開かれた横浜市介護保険運営協議会への報告として、18年度の評価点数を575点と明記しネット上で公開している。「いずれ厚労省は公表するものと思っていたので、何の躊躇もなく手続した」と介護保険課は話す。極めてまっとうな姿勢だろう。

東京都練馬区は「597点となり、都内23区の中ではトップ」と明らかにした。世田谷区は「522点です。都内では第10位だと東京都から聞いています」と言う。人口が多いので交付金は1億1255万円で都内第1位だ。大田区は「515点で、23区の中間ぐらい」。東京都は、市区町村から問われれば順位を答えているようだ。だが、杉並区や中野区などは「公表しません」と素っ気ない。

評価点が最も注目されたのは埼玉県和光市だろう。厚労省が「ケアプランの点検に力を入れる地域包括ケアの優等生。要介護認定率を年々下げてきた」と持ち上げてきた。そこで同市に評価点を尋ねると「公表していません」と門前払いだった。

ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員
浅川 澄一

1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。

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