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---ドイツ高齢者ケアルポ 終末期・共同住宅の最前線---

 

ドイツの介護保険制度の柱である家族介護者のための現金給付が年々減少している。独居高齢者が増えてきたためだ。そこでドイツ政府が力を入れだしたのは共同住宅(WG)作りである。

 

ボンの郊外に建つ青と白の洒落た3階建ての「ヴィラ・エマ」。12室の集合住宅である。入り口に入居者の顔写真が並ぶ。住民のうち低所得者の5人は、ボン市から家賃補助を受けている。

玄関には入居者の顔写真が掲示されている

8年前に開設した「ヴィラ・エマ」

身体障害者で車いすの中年男性、シュルツ・ローメラーさんはコンピューターの技術者。開設翌年の7年前に入居した。「施設と違い自由に外出できるのがいい」。介護保険のヘルパーが毎日来るが、同時に、現金給付の家事支援者もいる。「私が雇用主として、50歳代の女性を雇っています」。

 

入居者たちは平日の昼に、全員で料理をする。建物を建て、運営するアマリリス協同組合の代表、ジルケ・グロッスさんは「仕事をやめた高齢者は意味のある社会活動から遠ざかってしまう。そこで料理作りを約束事にしました」と明かす。「入居者の半数は、ここで生活していなければ介護施設に入所していたでしょう」と「成果」に胸を張る。

 

建設費は約2億2千万円かかったが、その20%は国と州からの助成金。共同住宅への行政の後押しは大きい。こうした協同組合方式のWGはこの20年で各地に150ほど建てられたという。

アマリリス協同組合は1994年に設立。グロッス夫妻が「年をとったらほかの人たちと一緒に暮らしていこうと決め、WGに取り組んだ」。05年に土地を確保、緑が茂る3階建ての3棟の集合住宅「アマリリス」が建つ。2007年に入居が始まり、全33室に50人の大人と13人の子どもが暮らす。60歳以上の高齢者と40~50歳代の中年層、それ以下の若年層が3分の1ずつの「多世代型住宅」だ。

 

住民は家賃などの契約書を協同組合と交わし、無期限で建物を利用する権利を得る。協同組合だけに「共同性」にこだわる。入居者が持参したマイカーは全員でシェアする。地下室に多くの車が並ぶが、各車の鍵はひとつの木箱に入っていた。

 

入居者の中に一人だけ、介護保険の要介護者がいる。86歳の女性。「日常的に住民から助けられているので、孤立してはいません」とグロッス夫妻は話す。「入居者は協力し合いながら暮らしているので、信頼関係は相当に強いと思います」。集合住宅での共同生活 「多世代」から「要介護者」向けへ/浅川澄一氏【連載第5回】高齢社会を迎えて、「要支援者同士が暮らす住まいを」という住民の声に応え、建設したのがすぐ近くの「ヴィラ・エマ」というわけだ。

 

「家族の間での助け合いが、だんだん細ってきたことを多くの人が感じています。といって、介護保険制度には頼れない。部分保険であって要介護高齢者のニーズに十分こたえられる制度ではないから」とグロッス夫妻。
そこで、3番目として計画中なのが25室の要介護高齢者向け集合住宅だ。「介護施設にはない自由な暮らしを続けながら、最期は緩和ケアだけを受けて亡くなることができる。キーワードは自己決定とQOL(生活の質)です」と強調する。

 

健康な多世代向けから要介護高齢者向けへ。アマリリス協同組合の集合住宅作りの変遷が、ドイツの課題を浮き彫りにしているようだ。

 

 

ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員
浅川 澄一氏

1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。

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