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【〈連載〉在宅医からみた地域社会 ~10年後、20年後のニッポン~】

 

---第2回 「ポリドクター」で見失う自分---

人生のどこかで大きな病気や事故を起こし、要支援・要介護状態になる。そして、そこから先、救急搬送と入退院を繰り返し、8割の方が病院で亡くなる。残る2割は在宅死ということなるが、そのうちの約半分は警察による検案死。これが日本における人生の最終段階の現実だ。

 

 

「人生の最期を穏やかに、できれば住み慣れた場所で過ごしたい」
多くの人のこの望みをかなえるために、もっとも必要なのは、私たちの医療に対する考え方を変えることなのだと思う。多くの人は、病院にかかるなら大病院・専門医が安心だと思っている。

 

確かに、専門医はその臓器の専門家だ。単一臓器の病気であれば、専門医の受診がもっとも適切だろう。

しかし、加齢に伴い病気の数は増えていく。病気ごとに主治医を持てば、病気の数に応じて主治医の数も増えていく。高血圧は循環器科、慢性胃炎は消化器科、骨粗鬆症と関節痛は整形外科…毎日のように病院通いで忙しいという高齢者は少なくない。このような状態を「ポリドクター」という。

 

 

本人はたくさんの先生に診てもらって安心、と思うかもしれない。しかし残念ながら、専門医が診ているのは「その人」ではなく、その人の「臓器」だ。生活の状況や人生などに関心はないし、そもそも忙しい外来でそんなことを確認している暇はない。

 

そして、それぞれの専門医は、自分の専門とする病気の治療についてプライドをもっている。確実な治療のために、少し過剰かもしれない薬が投与されることも少なくない。そんな専門医が2人、3人と増えていけば当然、処方される薬の数も増えていく。私が診療を担当したある88歳の女性は要介護2、高血圧、糖尿病、軽度の認知症があり、一人暮らしだった。

 

彼女には4つの科から23種類の薬が処方されていた。1日3回食前、1日3回食後、そして就寝前。1日7回にわけて服用することになっていた。それぞれ異なる医師から処方されているため薬は一包化されず、シートのまま。
きちんと飲めているはずはないのに彼女の「治療成績」は優秀だった。血圧も血糖もきちんと下がっていた。何を意味するのか。それは「きちんと飲むと下がりすぎるかもしれない」ということだ。

 

 

病院の医師たちは、患者がきちんと薬を飲んでいるという前提で処方をする。本当は飲めていないから効いていないのに、患者は薬を飲んでいると申告するので、薬が足りないと考え、より強い薬を増やす。こうして薬が必要以上に増えていく。

 

また、循環器からの抗血小板剤、整形外科からの鎮痛剤が、慢性胃炎を悪化させる。慢性胃炎に対する薬を増やすと、副作用で認知症状が悪化し飲み込みが悪くなる。こうして薬が原因で薬が増えていく。処方カスケードという。

 

 

いずれにしても、高齢者は多くの薬を飲んでいる。ポリファーマシー(多剤併用)というが、これは高齢者の生活に深刻な影響を与える。

 

佐々木淳 氏 
医療法人社団悠翔会(東京都港区) 理事長、診療部長 

1998年、筑波大学医学専門学群卒業。
三井記念病院に内科医として勤務。退職後の2006年8月、MRCビルクリニックを開設した。2008年に「悠翔会」に名称を変更し、現在に至る。

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