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【〈連載〉在宅医からみた地域社会 ~10年後、20年後のニッポン~】

 

---第3回 多剤併用の定義 世界とズレ---

生活習慣病の厳格治療 何歳まで?

 

医師に出された薬はちゃんと飲まなければならない。多くの人はそう思っている。施設の介護職は、薬を飲ませるために一生懸命努力と工夫をしてくれているし、うっかり落薬してしまったら事故として報告が来る。とにかく、薬を飲ませることにみんな真剣なのだ。しかし、高齢者にとって薬はリスクでもある。

 

 

高齢者はよく転倒する。その転倒の約40%に薬の影響が指摘されている。降圧薬の効きすぎによる血圧の低下、経口血糖降下剤の効きすぎによる血糖の低下、そして入眠導入剤や安定剤によるふらつきやめまい。いくら血圧をちゃんと下げるためとは言え、下げすぎてふらついて転倒し、骨折でもしてしまったら、何のために治療しているのだかわからない。

 

 

この転倒のリスクは、薬の種類が増えるにつれ大きくなることも知られている。外来通院している高齢者の場合、5種類を超えたあたりから急に転倒のリスクは大きくなる。入院している高齢者の場合、6種類を超えると薬剤性の有害事象の発症リスクが急に大きくなる。

 

高齢者の薬は5種類以内にすべきなのだ。海外では5種類を超えるとポリファーマシー(多剤併用)といい、有害事象のハイリスク群としてマークされる。日本におけるポリファーマシーの定義はなんと10種類以上だ。そんなのんきな定義で果たして大丈夫なのだろうか。

 

 

高齢者の多くは生活習慣病(高血圧・糖尿病・脂質代謝異常症など)を持っている。そして、生活習慣病治療のために複数の薬を服用しているのが一般的だ。生活習慣病はいずれも自覚症状はないが、では何のために治療をするのか。それは「動脈硬化の進行を抑制する」ためだ。

 

 

高血圧、高血糖(とそれに伴う高インスリン血症)、脂質代謝の異常は、いずれも動脈硬化を加速させる。動脈硬化が進行すると、脳梗塞や心筋梗塞、腎不全などの原因になる。動脈硬化の進行を抑制し、これらの病気を防ぐことが、生活習慣病治療の目的だ。

 

 

30代の高血圧や糖尿病は厳格に治療すべきだ。収縮期血圧は120未満に、ヘモグロビン は7.0未満に。これらの治療目標は、動脈硬化の進行を抑制し、動脈硬化による合併症を予防するために必要なものだ。

 

 

しかし、動脈硬化は血管の老化現象でもある。生活習慣病があってもなくても、80歳まで生きれば一人の例外なく全員が進行した動脈硬化の状態になっている。すでに動脈硬化の進行した高齢者の生活習慣病を厳格に治療する必要が果たしてあるのか?結論から言えば、加齢に伴い、生活習慣病の治療は徐々に緩やかにしていくのが安全であるということがわかってきている。

 

佐々木淳 氏
医療法人社団悠翔会(東京都港区) 理事長、診療部長

1998年、筑波大学医学専門学群卒業。
三井記念病院に内科医として勤務。退職後の2006年8月、MRCビルクリニックを開設した。2008年に「悠翔会」に名称を変更し、現在に至る。

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