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選択的介護最前線

動き出す「混合介護」

 

豊島区 挑戦と苦闘の3年

介護保険制度を巡る議論のキーワード、「給付と負担のバランス」。

その象徴の一つが混合介護の推進だ。「保険給付でできるサービスとできないサービスを一体的に提供できないか」。極めてシンプルな課題だが、境界や方法を巡る議論は介護保険制度の創設当初から続く。そうした「岩盤」を穿つことを期待されているのが、東京都と豊島区が進める「選択的介護」のモデル事業だ。現場を担う豊島区では、ゼロからの立ち上げに苦闘しつつも、3年目を迎えて一歩一歩前進している。

 

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保険内と保険外のサービスの区別を分かりやすくするために、一旦ヘルパーが家を出てから戻るとか、エプロンを取り替えてサービスの種別を分かりやすくするとか、本当に現場でそういう対応をやらざるを得なかったのが、これまでの介護の世界---そう話すのは豊島区介護保険課の松田美穂課長だ。

 

 

介護保険制度が公費によるサービス提供である以上、自費負担すべきサービスと明確に分けることは当然だ。ただ、生活実態として見ると、例えば日用品以外の買い物や書類の確認・整理のような制度上の「保険外サービス」は、せっかく訪問している介護事業者が組み合わせて提供した方が効率が良く、利用者の利便性や安心につながる場合が多々ある。事業者サイドも、介護報酬に加えて保険外サービスによる収入が期待できる。特に訪問介護事業は人材難が深刻化。経営の効率化と安定の両立手段としても注目される。

 

 

利用者保護のルールを明確に定めたうえでサービスの柔軟度を高めれば、混合介護はもっと可能性が広がる---東京都が豊島区と連携して保険内外のサービスの柔軟な組み合わせによる提供をめざす「選択的介護」構想を掲げ、国家戦略特区に手を挙げたのは2017年2月だ。

 

 

 

ゼロベースでの議論

事業者と行政の役割

豊島区が最初に直面した課題は、当初検討していた「保険内外の同時一体提供」や「指名料等」の実施には、利用者保護の観点からもクリアすべき課題が多く、現行の規制の壁が非常に高いということ。そこで、一般的な特区認定事業とは異なり、まずは現行の規制の範囲内で、モデル事業を立ち上げることにした。「規制緩和ありき」ではない、利用者保護に資する独自の仕組みの検討を行い、国からモデル事業実施について了承を得ること。そして、モデル事業を実施しながらその効果や課題についての検証を行うこと。その両方が選択的介護事業に課せられたミッションとなった。

 

 

 

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17年から豊島区は有識者会議を立ち上げ、事業内容の骨格の検討を開始した。区介護保険課の戸田圭亮係長は「現行規制の枠内で実現可能なサービスと規制緩和が必要なサービスを整理して優先的に着手する内容を決めた。一方で、ケアマネジャーや介護事業者から現場のニーズを聞き取り、具体的なサービス内容や実施にあたってのルール等をまとめた。こうして豊島区独自の選択的介護の実施ルールやモデル事業内容を固めていった」と当時を振り返る。

 

 

論点の一つは、利用者保護のために行政が混合介護にどのように関わるかという役割の明確化だ。従来の民間主体の混合介護の場合、保険外サービスの利用者と提供事業者が費用やサービス内容を巡ってトラブルになることも少なくない。また、あくまで「民・民」間の問題のため、利用者の保護は介護行政の悩ましい課題にも挙がってきた。

 

 

公的な仕組みとして選択的介護(混合介護)を推進する今回のモデル事業に先立ち、豊島区は17年12月に利用者保護の観点に基づく独自の「実施ルール」を策定。選択的介護を行う場合は、保険外サービスについても書面契約やサービス提供の記録等をサービス提供事業者に義務付けた。さらにケアプランに保険外サービスに関しても記載することを義務化し、ケアマネジャーの介在機会をできるだけ増やす仕組みとした。このほか、定期的にモ
デル事業参加事業者との連絡会や区主催の「選択的介護実務者研修」を実施している。

 

 

こうした準備を経て18年8月、「平成30年度モデル」事業がスタートした。これは訪問介護(介護保険サービス)に保険外サービスを組み合わせるもので、

 

▽日用品以外の買い物
▽趣味などへの同行
▽庭の手入れ
▽書類の確認・分別
▽Webカメラやセンサーによる見守り
▽ペットの世話

 

---などのサービスを提供。区の公募に応じて協定を結んだ事業者が、実施ルールに基づいてサービスを行っている。

 

 

19 年10月時点で、協定締結事業者は11者。利用者は30 件を超えた。「爆発的ではないが利用者は増加している。選択的介護というサービスのあり方も徐々に浸透している」(松田課長)。19年度は新たに「令和元年度モデル」事業も追加。今回の事業ではデイサービスや居宅介護支援の利用者に保険外サービスを提供するもので、20年以降の利用者拡大に期待がかかる。

 

 

豊島区の実施ルール策定から半年以上経った18年9月、厚生労働省は「介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する場合の取扱いについて」を公表した。体系的な混合介護の統一ルールの提示は、2000年11月の「指定訪問介護事業所の事業運営の取扱等について」以来、初めてのことだ。松田課長は「豊島区が先行して独自ルールを策定したことで、(厚労省通知への)一つの大きな動きを作れたのではないか」とみる。

この通知後、豊島区には全国の自治体から選択的介護に関する問い合わせや視察申し入れが増えている。

 

 

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規制緩和の行方と
豊島区のレガシー

岩を穿つ---残念ながら現場の挑戦はまだ道半ばというのが現状だ。18年の厚労省通知によって混合介護が「緩和された」と見る向きもあるが、積み残された課題は多い。例えば混合介護が今後普及した際、保険外サービスについての事業者の監督や指導に関し、行政がどこまで・どのように責任を持つのか等、通知の中では突き詰めていない。豊島区のルールでは事業者に義務付けた「ケアプランへの記載」も、厚労省通知では努力義務止まりだ。「保険者として市区町村は、保険給付のあり方への関与を従来から行っているが、今回の通知を受けて保険外サービスはどう考えるべきか。利用者保護という観点の一方で、事業者が任意で提供する保険外サービスに関し、保険者が指導・監督等でどこまで関与すべきか、通知からは見えてこない」(戸田係長)。

 

 

混合介護の普及を占ううえで最大の焦点は、規制緩和による「保険外サービス」の対象拡大だ。ただし、規制緩和や特区構想は内閣府の所管事業。それゆえ、厚労省などとの関係は一筋縄ではいきにくい。21年度の介護報酬・制度改定を議論している社会保障審議会でも、給付と負担を巡って「保険外サービス」や「自己負担」、といった単語が頻繁に飛び交うが、議論の俎上に「混合介護」はなかなか上がってこない。こうした議論の場への働き掛けに関しては、厚労省だけでなく、特区事業の本来の主体である東京都も積極性を発揮すべき部分だ。

 

 

選択的介護のモデル事業の期限は21年3月末。20年は折り返しの重要な年となる。「豊島区としては、要介護になる前からの高齢化への“攻め”の対応として『総合高齢社会対策』に19年度から着手した。高齢社会を支えるには介護保険制度だけでは限界がある。選択的介護の導入で得た経験をレガシーに、新たな挑戦を続けていきたい」(松田課長)

 

■図表3 混合介護に関する厚生労働省通知のポイント

○介護保険サービスと保険外サービスの同時一体的な提供や、特定の介護職員への「指名料」、繁忙期・繁忙時間帯の「時間指定料」など上乗せ料金の徴収は不可

○利用者に、指定訪問介護の事業とは別事業であり、当該サービスが介護保険給付の対象とならないサービスであることを説明・理解を得ること

○事業目的、運営方針、利用料等が、介護事業所の運営規程とは別に定められていること

○会計が介護事業の会計と区分されていること

○契約の締結前後に担当の介護支援専門員に対し、サービスの内容や提供時間等を報告すること。報告を受けた介護支援専門員は、必要に応じてサービスの内容や提供時間などの情報を居宅サービス計画(週間サービス計画表)に記載すること

○苦情を受け付ける窓口の設置等必要な措置を講じること

○通所介護事業所の職員が同行支援等の保険外サービスを提供する場合、通所介護に従事する時間には含めないこととした上で、通所介護事業所の人員配置基準を満たすこと

○医療機関への受診同行で、複数の利用者を一律にまとめて同行支援をするようなサービス提供は不可

○物販・移動販売やレンタルサービスの場合、日用品や食料品・食材ではなく、例えば高額な商品を販売しようとする場合、あらかじめその旨を利用者の家族や介護支援専門員に連絡すること。認知機能が低下している利用者には、高額な商品等の販売は行わないこと

※2018年9月28日付「介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する場合の取扱いについて」に基づき作成

 

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