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 2025年には団塊の世代が後期高齢者となることで、介護事業者に求められるサービスのニーズが様変わりすると言われている。これからの時代、高齢者住宅には多様な役割が求められるであろう。事業者が直面している課題の背景を紐解き、解決策を模索すべく、元高齢者住宅財団理事長、東京通信大学教授で国のサ高住の在り方に関する懇談会座長の髙橋紘士氏に話を聞いた。(聞き手・高齢者住宅新聞社社長網谷敏数) ※2020年4月1日・8日合併号掲載記事より

 

 

東京通信大学
髙橋紘士教授

 

 

「最大の失敗は“多床室”施策」

 

網谷 サ高住の数は順調に増えてきている一方で、国土交通省とともに共同所管になっているはずの厚生労働省が「同一建物減算の拡大」を行うなど厳しい目を向けているが、財務省からも「過剰サービス」「囲い込み」を指摘する批判的なデータが出されています。

 

 

髙橋 財務省は目先の国庫負担の抑制のためにデータを出すことが通常だ。しかし経済協力開発機構(OECD)のデータにより、対GDP費で国際比較をすると、日本は高齢化率に比べて社会保障の高齢者の医療や介護福祉への費用投入が少ないのに、名目の数値の大きさにとらわれてしまって削減可能と錯覚している。問題は、1973年の老人医療無料化以来、医療がケアを抱え込んでいたのを切り離すために介護保険が生まれたということの意義を理解することである。介護保険制度をつくり、医療と介護をすみ分ける流れをつくり、低所得対策であった老人福祉を誰でも利用できる仕組みに改めた。
そうなると当然、当初の1割負担の仕組みも相まって、介護施設に高齢者が押し寄せて来ることになった。そこが問題だろう。

 

 

 

欧州と比較した適正家賃の概念

 

網谷 そうした状況から、「住まいを作って外付けでサービスを提供する」モデルの普及に向け、その担い手としてサ高住が創出されました。

 

 

髙橋 ところが、日本の場合はおそらく、平均年金額などとの対比で国際比較をすると、サ高住や有料老人ホームの入居費用が極めて高額で、しかもこれを補足する公的住宅手当がない。また、高齢者向けの住宅もその一類型である日本の民間賃貸住宅は、土地取得費が高いため借りる側にとって賃料が高くなり、狭い住宅が当たり前になっている。

 

 

これは司馬遼太郎が「土地と日本人」で指摘しているとおり、明治時代以降土地の私有化が進み、土地バブルという言葉があるように、戦後の高度経済成長以来の投機の対象になってしまった弊害だ。公有地になっていれば、欧州のように広めで賃料も安いソーシャルハウジングがもっと供給されたのではないだろうか。

 

 

網谷 日本の土地取得費が高いというヨーロッパとの違いが、広くて良い物件が供給されないということにつながってくると言えると。

 

 

北欧は〝大規模化〞廃止

 

髙橋 ヨーロッパにはソーシャルハウジングが4割、日本では公営住宅が5%程度である。さらに、ヨーロッパの建物はロングライフで、ストックになる。ストック重視の欧州と住宅の寿命が短い日本の違いもある。それを踏まえ、「サ高住の家賃は適正家賃かどうか」という議論をしてみる必要がある。総収入の3割程度を適正家賃とする考え方にならい、欧州では、例えば年収500万円の人がその3割の資金で居住できるようになった。つまりひと月12〜13万円で住むことができる。

 

 

網谷 日本で12〜13万円で住めるサ高住というのはまだ少ない。国際規格から見ると、現在普及している多くのサ高住の入居費用は、「適正家賃」とは言えないかもしれないですね。

 

 

髙橋 負担能力を勘案すると、まったく適正ではない。サブリース方式を採用している事業者が多いが、サブリースが成り立つためには、近傍の賃貸住宅の値段を見て、その利回りを保証するような形でしか提供されない。そうすると、都心はやはり20万、諸経費を入れると25万、立地も良い有料老人ホームになれば50万を超えてくる。それは、全体として市場家賃に連動してしか決められないことによる。

 

 

網谷 当然、固定経費としてのサブリース料金を払うために事業に無理をきたしてしまう。低所得者向けの住宅をつくる貧困ビジネスという発想にも繋がりやすい。もうひとつは介護保険給付との合わせ技をするしかない。

 

 

髙橋 民間賃貸業においては、何をもって適正な利潤とするかは非常に悩ましい問題。そしてそこに政策的介入が十分になされていないからこそ、貧困ビジネスが生まれてしまったのだろう。適正な利潤とするべく「囲い込み」をして介護給付を受け取るということ自体は、悪いことではないはず。
一方で、居室面積18平米のサ高住が6割以上を占めている。狭いものしか供給されないのは、市場家賃に連動した収支構造になっているという根本的な問題がある。だから、大手の事業者はスケールメリットを求めた大規模なものをつくる。大規模なものをつくればつくるほど、施設化していく傾向が強まることになる。

 

 

網谷 本来の、在宅の延長でサ高住へ、という流れとはかけ離れてしまう。

 

 

髙橋 仰る通り。市場の合理性と成果主義によるのだろうが、とりわけ大手の事業者の場合は株主から成果を要求されるため、入居率を上げて一定の収益を確保しなければならない。

 

 

「早めの住替え」かけ離れた実情か

 

網谷 そのような中で、肝心の入居者は、平均年齢が85歳前後と聞く。「早めの住替え」とはとても言えないですね。

 

 

髙橋 「早めの住替え」というのは、適正家賃であれば成り立つもの。支払い能力になんらかの限定があると成り立たない。「生涯支払可能家賃」という考え方を導入したらどうだろうか。その前提に立つと、「高い所に長期間住む」ことを嫌い、「短期間なら多少高い所でもよい」という傾向は十分に理解できる。

 

 

網谷 しかし、終の棲家としての入居期間が短いか長くなるかは予測しにくいですよね。

 

 

髙橋 そう。ただ、はっきりしているのは、現在のところ、高齢者向け住まいの平均入居期間は5年程度でしょう。高齢者の住まいの紹介を行っている良心的な事業者によると「入居検討者は、随分早くから情報を集め始める」という。一人になったときの決断をどうするか、長い間夫婦で話し合うそうで、いよいよの時まで入居を引き延ばすことが多い。だから、平均年齢が85歳になるというわけだ。そしてそこで希望する家賃は大体12.3万円。現実の家賃とは5〜6万円以上の落差があるため、資産をやりくりして「じゃあ20万円でもいいか」と入居を決める。

 

 

網谷 つまり、「早めの住替え」とはまったく逆の意識で入居選択をしているという実情がある。そして介護サービスをどうするかという問題になりますね。

 

 

緩和ケア専門看護師 看取りニーズに対応

 

髙橋 要介護状態になってからの入居となると特養も選択肢に入るが、特養はいまだに多床室が多く残っている。今後は個室で育って生活してきた人たちが高齢者になるというのに。私は、日本の介護施設の最大の失敗は「4人部屋を維持してきたこと」、そして社会がそれを容認してきたことだと思う。それなりに施策を打ったし、事業者もノロなどのウイルス感染で多床室の弊害を被ってきたはず。相部屋を個室に改造し、エアコンも別の方式に改造して、感染リスクが軽減したといった話も聞いたことがあるが、そうしたことをなかなかやらない。

 

 

網谷 多床室なら補足給付で自己負担は少なくなるが、個室ユニットに入ろうとすると相当の自己負担を要求される。だとすれば、「管理される施設」よりは「住宅」の方がよい、とサ高住を選択する層は相当数ありそうですね。

 

 

寝たきりモデル脱却へ、孤立化防ぎフレイル予防

 

疾病構造に変化、フレイル型とは

 

髙橋 さらに問題なのは、「寝たきり老人モデル」が相変わらず温存されていることだ。どこの施設でも重度者への食事・排泄・入浴という三大介護に重点を置いている。
実は2006年からの初めての介護保険法改正で個室ユニットおよび小規模多機能型居宅介護を導入したのは認知症モデルへの対応だった。昨今はがん、フレイル、認知症の人たちが増えており、介護サービスのニーズは多様化している。中でも東京大学名誉教授、秋山弘子氏が指摘するように、「高齢者の要介護への進行をみると、2割は重症化・寝たきり、7割はフレイルモデル」だとされている。

 

 

 

高齢者も、子どもも集う街へ

 

個性豊かなサ高住 ハードの工夫とは

 

網谷 今後重要なのは、認知症モデル、フレイルモデル、がんモデルだと。これまでは三大介護による「管理するケア」であったのが、フレイルモデルになると、個人の自由な選択を尊重するサービスが求められますね。

 

 

髙橋 この点にこそサ高住のメリットがあると思う。すなわち自由な枠組で、介護施設のように事細かな基準や足手まといになる規制がないことである。サ高住の要件を満たしておけば創意工夫で、自由にそれぞれのサ高住の特徴をアピールできるはずだ。

 

 

網谷 今後のニーズの変化により、サ高住の本来持つべきであった役割を発揮できそうですね。サ高住においては、基準緩和型の18平米モデルが大半ですが、30平米以上などのモデルがもっとあってしかるべきでしょう。

 

 

“ワイワイガヤガヤ”主流に

 

髙橋 未来企画(仙台市)の「アンダンチ」やシルバーウッド(千葉県浦安市)の「銀木犀」などのサ高住が注目を集めているが、最近私が注目しているのは、HAPPY(神戸市)が運営する「はっぴーの家ろっけん」という、いわゆるワイワイガヤガヤ型のサ高住。

 

 

オーナーが相続した土地をサ高住にして、お年寄りも子どもも集まる、多世代型の地域拠点を意図的につくった。普通のサ高住と違うのは、もともと地域とのつながりを持っているオーナーが、地域社会貢献におけるひとつの選択肢として「サ高住」を選んだこと。また、同じような相続資産の活用モデルで、大阪都心の土地を活用し、若手の中で注目されている設計事務所に依頼して、興味深いデザインにした高齢向け住宅の例もある。

 

 

今年度の国交省の「住まい環境モデル事業」で採択された「北勝堂プロジェクト」(写真提供:仲建築設計スタジオ/東京都目黒区)では、対面式のスキップフロアとアトリエという空間を各戸に配置した。故・外山義さんが提唱した、高齢者の生活空間のデザインモデルを適用した「プライベート」「セミプライベート」「セミパブリック」「パブリック」を巧みに配置するという手法でデザインされており、住人の孤立化が防げることで、社会性が維持されフレイル予防につながる空間設計が行われている。

 

北勝堂プロジェクト「多世代共生・地域共創施設『老松長屋』建設事業」(大阪市)によるスキップフロア構想

 

 

網谷 確かに社会性が維持されるということは認知症の発症を遅らせたりする効果があるそうですね。また、今急増しているのは、がんの方。難病の方々など含む生活を支え、看取りまで行う場がこれから必要だと思うのですが。

 

 

髙橋 日本ホスピスホールディングス(東京都千代田区)のホスピス型サ高住「ファミリー・ホスピス」も工夫を凝らしている。がんや難病の方々の生活と看取りを支えるために、サ高住の仕組みを活用し家族が泊まれる広さを確保して、看取りにしっかり向き合っている。多くの居室内トイレは入り口側に設置されるが、ここでは一番奥、ベッドから導線の良い位置と距離に配置されている。最期までトイレに行けるようにと配慮した工夫だ。

 

 

居室も広く、共用部分にも居場所をつくったため、がん末期の入居者がパソコンを持ち込み、最期まで社会活動をしていたこともあるという。廊下もなく、居室ドアを開け放すと共用部であるリビングと繋がることで、「人心地のある空間」が生まれる。死を意識する繊細な高齢者にとって、人心地があるということがどれだけの意味を持つか。そういうことを考え抜いて事業計画を運営しないと、一方向に続く細い廊下に居室を並べるような設計になるのだ。戸数を少なくとっているため経営は大変かもしれないが、赤字ではないそうだ。

 

 

 

「家賃補助」制度化を

 

網谷 サ高住が画一的ではだめになってきた。工夫をこらしたハードにしたり、多世代型にしたりしている。今一度、「魅力のある高齢者の住まいとは何か」と問われたら、サ高住の経営者はどのように答えるのでしょうか。

 

 

髙橋 地域によっては、持ち家が主流というところもある。「早めの住替え」でサ高住に住替えるというのはなかなか現実的でない。アンダンチにしても、地域住民からは評価されても、開設してパッと入居率が100%になるわけではない。

 

 

網谷 高齢者が持ち家からサ高住に入るには、それなりの時間と計画が必要ですよね。

 

在宅支援セットに事業モデル化

 

髙橋 有無を言わせず入居先を探す必要があるのは、早期退院を迫られた急性期病院の入院者。高齢者住宅財団の調査では、高所得者層は自宅に戻らず、有老やサ高住に入居する。生保受給者は住宅扶助があるから何とかなる一方で、低所得者層は特養にも入れず、「やむを得ぬ在宅」しかないことが多い。この表現はあるMSWの印象深い言葉だ。多くの場合、あたふたと入居先を探す。また、新設された「介護医療院」では、居住環境が貧しすぎて、それこそ寝たきり用あるいは寝たきり誘発型になってしまう。しばしば、そうした急ぎの入居を私は「あとのまつり型入居」と呼んでいるのだが、重度化をどんどん進行させるようなことになって、家族が後悔するという話をよく聞く。

 

松岡洋子氏の著書「エイジング・イン・プレイス(地域居住)と高齢者住宅」でも述べられているが、高齢者にとって快適な施設としては、25人程度の規模がよいとして、北欧諸国は大規模施設を廃止した。介護施設や高齢者住宅の経営者がどのようにこれからの入居者のニーズを感じ取りながら事業モデルと施設の在り方をデザインしていくか、そこを今一度問い直したい。

 

 

事業継続と時間の経過を考えたときにはっきりしているのは、これからの入居者はこれまでの入居者とは相当違うということ。これまでは高度経済成長によりそれなりに資金を投入できる人がいて、貧困層は補足給付を使って特養に入るという道筋があったが、これからどうなるのか。さらに富裕層モデルの市場については、一定数普及してしまうと飽和するだろう。そうするとそのほかのどの階層をターゲットにするか。私は、「住宅手当をつくろう」と経団連含め高齢者住宅にかかわる事業者が言うべきだと思っている。

 

 

高齢者住まい向け「住宅手当」の概念

 

網谷 住宅手当とは、家賃補助などにあたるものか、あるいは特養における補足給付のようなものでしょうか。

 

 

髙橋 本来は公的な仕組み、あるいは住宅扶助を単給化して低所得世帯に拡大するなどが良いのだが、生活保護を受給してはいないが家計が苦しい層まで拡大する必要があるとなると、相当の財源が必要だ。補足給付は保険財源だからできたことで、公費財源ではできなかっただろう。しかし、税を財源として住宅手当を作るのはあまりにもハードルが高い。保険財源と公費を組み合わせるとすると、補足給付に加えて、医療財源から退院支援給付のようなものを考えるのも、抵抗があるだろうが一案だ。医療扶助が社会的入院としての長期入院に使われているが、これを使うのもありだ。このような家賃の負担制度ができると、民間賃貸市場、とりわけ戸建て空き家の活用策でもあるセーフティネット住宅が活性化されるだろう。

 

 

 

サービスの選択性も視野に

 

網谷 ハード面の話が多くなりましたが、多死時代に看取りの役割も望まれるサ高住のソフト面については。

 

 

髙橋 看取りの必要はどんどん増すだろう。最期は病院に搬送してしまうケースがおこるだろうが、これは社会的コストになり抑制的になるだろう。病院も受けなくなると思う。一方で、しっかりと看取りができる仕組みを作るために、ファミリー・ホスピスでは緩和ケア専門の看護師を配置するなどして成功している。ここまで在宅医療が発展してきたことからも、地域と医療はもっと結びつき、その結節点に看護師が大きな役割を果たせるはずだ。

 

やはりサ高住や介護施設は比較的小規模である必要があるだろう。大規模型ホスピスモデルがちらほらできてきたようだが、これは施設化のリスクも抱える。そうではなく、在宅での支援を必ずセットにして地域拠点となることを目指してほしい。

 

 

網谷 新潟県長岡市の「こぶし園」はいち早く、既存の特養を解体し、自由度の高い小規模な高齢者住宅の可能性を広げたのではないですか。

 

 

髙橋 まさしくそうだろう。そうしたことも含めて、サ高住の良さを再発見し、そしてそれに合わせた地域需要、高齢者の生活の仕方・ケアのあり方まで見通しながら、経営者には再度、自分たちの事業モデルを考え直してもらいたい。また、このような事業モデルを後押しする包括払いの新型多機能拠点を制度化して欲しい。

 

 

 

〝過剰なサービス〞保険者がチェックを

 

サ高住への批判 どう受け取るか

網谷 「過剰なサービス」「囲い込み」と言われ、サ高住が給付を使いすぎているという批判もありますが、実態は限度額の7〜8割にとどまっていると言います。これについてはどう考えますか。

 

 

髙橋 必要な人に給付を与えるのが介護保険のいい所。使いすぎかどうかは保険者がチェックすべきことであって、財務省が言うことではない。はっきり言って越権行為だと思う。併設サービスも囲い込みも、ビジネスモデルだからやらざるを得ない。悪意でもって確信犯的にやっているところは排除していくべきだろうが。

 

 

網谷 成果主義や採算主義に則ったようなビジネスモデルだとそれはよろしくないですが、魅力あるサ高住をつくろうとするコンセプトに基づいた事業だということが発信できればいいですね。

 

 

髙橋 しかし、自社サービスの利用に一本化して、他社のサービスを受けられないような策を打っている事業者が多いことは事実だろう。

 

 

網谷 そうですね。大体が自社の併設しているデイや訪問介護を使ってくれと言いますが、そうしたほうが入居者にとってメリットがあることも確かだと思います。しかしこれだけ囲い込みと言われるのであれば、案内に「併設しているのは当社の事業所。ただし、近隣にはここにA社のデイがある、訪問介護はB社のものがここにある」という情報を入居者に明示すればいいのではないでしょうか。行政もそうすべきと言えばいいし、事業者も率先して取り組めばよいと思うのですが。

 

 

髙橋 同感だ。私は、外付けサービスが本則だと思っている。今後、サ高住や介護施設が多様な状態像の人たちの暮らす場所になっていくとしたら、その人の個別性を汲んでサービスを提供しないとうまくいかない。しかし、内付け(包括)サービスだとフレキシブルではなくなる。

 

 

網谷 日本の高齢者住宅には類型がたくさんあり、外付けか包括かということも分かりにくい。地域包括ケアをどうつくっていくかという点においても、在宅サービス、特養、有老、GH、サ高住、と諸々ある中で、役割分担や住み分けが非常に難しい。

 

 

髙橋 個人的には、少なくとも「住宅型有老」「介護付有老」と分類するのをやめた方がいいと思う。住宅型にも要介護度の高い人が入居しているし、住宅型とサ高住の境目も利用者視点ではわかりにくい。本来は北欧型で24時間の外付けサービスをしっかり提供し、ICTの活用も促進すべき。

 

 

 

地域包括ケアでの特養の意義を問う

 

網谷 地域包括ケアの中で、特養はどうあるべきでしょうか。

 

 

髙橋 私は、相部屋はとにかく廃止すべきだと思う。医療の流れとしては、急性期の早期退院が進むと、寝たきりモデルは減っていくだろう。これまでは、寝たきりになってから医療管理が最小限ないし必要ない人たちを特養と中間施設としての老健が受けてきたが、この先10年スパンで見ると変化するはず。何よりも脳卒中モデルというのは相対的に減っていく。

 

 

 

営利企業といえども地域社会への貢献を

 

網谷 できる限り住民の税金を投じた特養をつくらずに、在宅サービスを充実させ、その延長にサ高住を据えた「和光市モデル」についてはどう考えますか。私としては、特養に依存せず、民間の在宅サービスとサ高住でケアしていこうという取り組みを全国で初めて手掛けたモデルだと思います。住宅手当や家賃補助なども市の公費で行っていました。

 

 

髙橋 和光市モデルが地域包括ケアの本筋だろうと私も思う。平均よりぐっと低かった介護保険サービス利用量がすべてを表している。奄美大島に大和村というのがある。ここでは村立特養を廃止して、小規模の拠点を分散配置する構想で動きだしている。実は、この地域拠点で、地域住民が積極的にこの拠点と関わり、フレイル予防に資する取り組みと連動しようとしている。村立特養の介護スタッフはそれぞれの地域拠点のキーパーソンとして配置する予定だ。このような試みを全国各地で展開すれば、大規模抱え込み型の施設・病院モデルは意味をなさなくなるはずだ。

 

さらに最期までアクティブでいられる環境であれば、高齢者は寝たきりにはならないというのが、理論としてほぼ確立できると思う。私の関係している東京のある区では東京大学の高齢者総合研究機構と協働して、大都市型の地域づくりを「柏モデル」の大都市バージョンとしてやろうと、今年からプロジェクトが動きだしている。

 

 

網谷 多様な介護施設・高齢者住宅の類型が共存するためにはどうしていくべきでしょうか。

 

 

髙橋 日本の様々な制度がそうだが、「バウムクーヘンモデル」で説明できる。渦巻きの中心が、老人病院+特養の「寝たきりモデル」、その周りに老健、そして療養病床ができていった。また、武久洋三医師が指摘する「寝たきり状態を作り出す急性期病院」も中心部に位置するのだろう。00年の介護保険制度施行後、05年の介護保険法改正でその外の輪に、地域密着型サービスをつくった。翌年、制度外の宅老所を小規模多機能として制度内に入れた。そのころ特養にも個室ユニットができ、認知症モデルも加えられた。そしてサ高住の輪ができた。しかしながら、北欧における「改革」ではまず、古い制度、つまりバウムクーヘンの中心をつぶした。一方、日本では既得権と絡まって改革が困難であったため、古い仕組みが温存されているといえるのではないか。

 

 

網谷 税金も社会保障も使いたくないなら、特養の役割を限定して、民間が有老やサ高住をやればいいと思うのですが。特養をつくろうとする動きは都心でも依然として続いていて、自治体のトップが「こんな豪華な特養をつくりました」と住民に自信たっぷりに発信する。地域の高齢者施設・住宅の供給量も把握しておらず、適正な供給目標もわかっていない。そうしたやり方がこれからも続いていくのでしょうか。

 

 

髙橋 「特養をつくりました」というのは成果としてわかりやすいからだろう。今まであるものの方向転換ができないのは、日本の宿命といえる。政府が戦略的な位置づけができなかったのも一因だ。外国へ視察にはいくけど比較はしない。なぜ日本ではできないのか、取り入れられないのかを考えない。

 

 

 

事業者のあり方問われる時代に

 

網谷 改めて、2025年、2040年を迎える日本において、高齢者を取り巻くサービスは今後どうあるべきですか。

 

 

40年までマーケット拡大

髙橋 ますます事業者のあり方が問われる時代になろう。今後2040年までは高齢者マーケットは拡大するが、その中身は様変わりしていく。ビジネスの場としての高齢者市場をどうみるか、捉えなおす必要がある。営利企業といえども社会性、地域社会への貢献ができなければ存続の意義はない。単に収益をあげることを自己目的としてしまいがちな装置産業ではなく、地域と密接に結びついたサービス業としての本質を考えるべき。
装置産業ととらえた瞬間にイノベーションはなくなるように思う。事業者が事業拠点の地域社会を我がごとのように考え、事業者としての誇りをもって事業を手掛けてもらいたい。

 

 

(なお、本記事内にて言及の「北勝堂プロジェクト」に関しまして、現在、コロナ禍の経済情勢の影響により事業中止となっております。)

 

 

 

東京通信大学
髙橋紘士教授

 

〈髙橋紘士氏プロフィール〉
東京通信大学教授。社会保障研究所研究員、法政大学、立教大学教授、高齢者住宅財団理事長などを経て現職。現在,高齢者住宅協会顧問、有料老人ホーム協会理事、全国ホームホスピス協会理事、全国居住支援法人協議会顧問など兼務。国交省「サービス付き高齢者住宅に関する懇談会」座長を務める。この間、厚労省老健局「高齢者介護研究会」「地域包括ケア研究会」などの構成員を務めた。

 

 

 

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