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【〈連載〉在宅医からみた地域社会 ~10年後、20年後のニッポン~】

 

連載第8回 高齢者施設でアウトブレイクが起こったらどうするのか?

 

 

4月26日に入居者の感染が明らかになった札幌市の介護老人保健施設「茨戸アカシアハイツ」では、5月12日までに入居者の6割を超える58人と職員19人、あわせて77人が感染。市は感染者を入院させずに施設内でケアするよう求め、感染者は2階に集め隔離された。しかし、1階の入居者や職員にも感染が拡大、8名が施設内で死亡している。

 

 

感染が明らかになった4月の時点で施設の常勤看護師が全員退職、介護職も感染や出勤停止により離脱し、通常の半分以下のマンパワーで、普段よりも厳しい業務に従事せざるを得ない状況にある。道外から支援に入った看護師たちも十分な申し送りや支援環境がない中で苦戦している。

 

 

これまでに介護福祉施設14ヵ所で、20人を超える新型コロナの集団感染(アウトブレイク)が報告されている。施設内での集団感染は、職員の感染や退職によるケア力の低下、入居者の感染による医療介護依存度の上昇、加えて地域からの偏見や干渉など、施設運営を厳しい状況に追い込むことになる。しかし、多くの場合、施設内で疲弊した職員が感染した入居者をケアし続ければならない。

 

 

施設運営者や職員にとっては想像もしたくない状況だが、これは、いつどこで発生してもおかしくはない。新型コロナは無症状の潜伏期間が長い(4日~13日)。無症状の職員や訪問者が外部からウイルスを持ち込み、一人の入居者に感染させれば、誰かが発症するまで、どんどん感染が拡大する。一人の感染が明らかになった時には、すでに集団感染になっているのだ。施設運営者のやるべきことは、集団感染が起こらないよう祈ることではなく、集団感染が起こった時に適切に対処できるよう準備をしておくことだ。

 

 

 

具体的にやるべきことは以下の4点。

 

①指揮命令系統の確認

まずは感染対策委員会を機能させる。感染予防と制御のための計画を作成し、以下②~④に戦略的に取り組む。嘱託医・連携医が感染管理に関する能力に乏しければ、感染管理に対応できる医師(ICDなど)や認定看護師(ICN)と事前に連携し、計画立案から関わってもらう。

 

 

②感染予防と制御のための研修とシミュレーション

介護職の多くは感染予防と制御に関する適切な知識とスキルを有していない。個人防御具も適切に選択・着脱できなければ感染を防げない。またゾーニングやコホーティングに対する理解も必須となる。

 

 

③集団感染が発生したときの人員確保体制の確立

施設内で感染が確認された場合でも業務を継続できる職員を確認しておく。高齢や持病のある職員は前線の業務からは外すべきである。複数事業所を抱える法人であれば、法人間で融通できる部分もあるかもしれない。しかし、それが難しい状況に備え、地域内あるいは地域を超えた相互支援のネットワークづくりにあらかじめ取り組むべきである。介護施設のみならず在宅系事業所や病院、行政も含め、日頃から課題意識を共有し、スムースな職員の共有が可能な関係性を構築しておく。

 

 

④感染防御資材の確保

感染拡大期には入手が困難である。そうでない時期に十分量を確保しておく。全入居者が感染し、全職員が必要な感染防御をするという前提で2ヵ月分の備蓄は持っておくべきである。 実はこれらは全く目新しいことではない。「高齢者介護施設における感染対策マニュアル」の内容そのものだ。これを形骸化せずにきちんと実践することが大切だ。例えば、結核が出た場合にはN95が必要だと明記されている。そして1000枚を超えるN95を備蓄している施設もある一方、サージカルマスクすらも不足したという施設もある。「感染者は看ない」という前提は感染拡大期においては許容されない可能性が高い。日頃から危機管理意識が求められる。

 

 

 

新型コロナの第一波はいま過ぎ去りつつある。しかし、第二波は必ずやってくる。第一波では恐れていた医療崩壊などのカタストロフィを経験せずに済んだので、自粛要請などやりすぎだったのではと感じている人もいるだろう。感染拡大の抑制は第二波のほうが難しくなるかもしれない。そして、それまでに変異を重ねた新型コロナはさらに感染力や毒性を増しているかもしれない。100年前のスペイン風邪は、第二波によりもっとも多くの人が亡くなっている。稼いだ時間を無駄にせず、しっかりと備えておきたい。

 

 

 

 

佐々木淳 氏
医療法人社団悠翔会(東京都港区) 理事長、診療部長

1998年、筑波大学医学専門学群卒業。
三井記念病院に内科医として勤務。退職後の2006年8月、MRCビルクリニックを開設した。2008年に「悠翔会」に名称を変更し、現在に至る。

 

 

 

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