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第17回 〝人を診る〞精神医療の達人を撮る

東京都では休業要請緩和の段階が「ステップ2」に進み、映画館も営業を再開した。いつでも文化にアクセスできる東京で、劇場の休館は、映画の経済を停滞させた。その渦中で、施策として試みたのが、「仮設の映画館」だ。映画「選挙」(2007)、「精神」(2008)などの〝観察映画〞で知られる想田和弘監督と配給会社・東風の発案により、インターネットで限定的に映画館を開設した。渋谷のシアター・イメージ・フォーラムをはじめ、全国の映画館が参加している。

 

 

観客は、どの映画館で作品を鑑賞するのかを選び、その鑑賞料金は「本物の映画館」の興行収入と同じく、各劇場と配給会社、製作者に配分される仕組みだ。

 

 

 

健常者と精神障害者を遮る“見えないカーテン”取払う

4月に公開を予定していた想田監督の新作、観察映画「精神0」は、「精神」から10年の時が経っていた。「健常者と精神障害者たちの間は〝見えないカーテン〞で遮られている」という想田監督は、一般社会では、精神疾患を「危険な存在」と位置付け、自分達には関わりのないものと目をそらしていることに違和感を覚え続けてきた。当時、小泉政権の下、05年「障害者自立支援法案」が可決され、医療・福祉政策がドラスティックに進められていた。

 

(C)2020 Laboratory X, Inc

 

「精神」の舞台になった岡山市の精神科診療所「こらーる岡山」に集う、様々な心の病を抱える患者の展望にも、影を落とした。想田監督は、〝見えないカーテン〞を取り払うため、カメラを回した。診療所の古民家の佇まいは、彼らを快く迎え入れていた。扉の向こうにだけ、互いを信頼し合えるファンタジーの世界が広がっていたのだろう。

 

 

 

山本昌知医師は、1969年から、閉鎖病棟の鍵を外してゆく取り組みをはじめた先駆者である。

「誰が鍵を閉めているのか」をテーマに、週に1回、医療者側と当事者で話し合いをしたという。お互いに関心を持ち合うことで、やがて「鍵を開ける」という目標を共有し、徐々に達成された。97年、岡山県精神保健福祉センターを希望退職し、診療所を開業してからも、妻の芳子さんと家族を巻き込み、全人生をかけて社会で生きにくい人々のために力を尽くしてきた。

 

 

 

しかし、2018年、82歳で突然、引退を決めた。患者たちは不安を拭えない。想田監督は、「精神」ではフォーカスできなかった山本医師に、再びカメラを向けたいという衝動にかられ、撮影を申し入れた。〝人を診る〞精神医療の達人の観察が叶ったのだ。あえて、引退の理由は聞かず撮影に臨んだ。タイトルの「0」は、山本医師が患者に伝えた「0に身をおく」との言葉からだ。偶然にも、我々は今パンデミックにより「0」を体験した。その初期化されたシンプルな心の目で、この映画をみてほしい。6月6日より渋谷シアター・イメージ・フォーラムほか全国順次公開。

 

 

 

小川陽子氏
日本医学ジャーナリスト協会理事。国際医療福祉大学大学院医療福祉経営専攻医療福祉ジャーナリズム修士課程修了。同大学院水巻研究室にて医療ツーリズムの国内・外の動向を調査・取材にあたる。2002年、東京から熱海市へ移住。FM熱海湯河原「熱海市長本音トーク」番組などのパーソナリティ、番組審議員、熱海市長直轄観光戦略室委員、熱海市総合政策推進室アドバイザーを務め、熱海メディカルリゾート構想の提案。その後、湖山医療福祉グループ企画広報顧問、医療ジャーナリスト、医療映画エッセイストとして活動。2019年より読売新聞の医療・介護・健康情報サイト「yomiDr.」で映画コラムの連載がスタート。主な著書・編著:『病院のブランド力』「医療新生」など。

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