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 新型コロナは収束したものの、終息はしていない。今も各地で散発的にクラスターが発生している。多くの医療介護施設運営者は、自らの施設がクラスターになるかもしれない、という緊張感とともに事業運営をしていくことになる。私も在宅医療を通じて、さまざまな高齢者施設を見ている。中には無防備なところもあれば、明らかに過剰な感染防御対応をしているところもある。新型コロナとの共存は、ここから先、少なくとも1年以上は続く。どのように付き合っていけばよいのか、私自身も医療機関運営者の立場で考えてみたい。

 

 

 

新型コロナは「事故」というよりは「災害」

 

一番重要なのは、感染の持ち込みを「完全に防ぐことはできない」ということだ。これはむしろ地震や水害などの自然災害に似ている。自然災害は防ぐことはできない。大切なのは「防災」ではなく「減災」、つまり災害が発生したときの被害を最小限に抑えるということだ。

 

特に災害時に問題になるのは、災害そのものの被害というよりは、その時の不適切なオペレーションによる人的被害の拡大、そして被災後の不適切なケアによる二次災害の発生だ。新型コロナ感染症についても、全く同様のことが言える。

 

 

 

熱が出ている人の利用を断る。体調の悪い職員の出勤を停止する。これは当然のことだ。しかし、新型コロナの怖さは、発症前(無症状)の潜伏期間中であっても感染力があること。そのピークは発症前2日から発症後5日と言われている。症状が出てからブロックしても実は手遅れだし、症状が消失した利用者や職員を「念のために」10日以上利用停止・出勤停止にするのも合理的ではないかもしれない。

 

 

 

大切なことは、利用者や職員の中に感染者がいたとしても、感染拡大を最小限に食い止めること。その為には日常の施設運営の中で、三密を避け、接触感染や飛沫感染が起こりにくい環境や関わりを意識すること。そして、疑わしいケースが出たら、連携医・協力医に直ちに連絡し、状況に応じて速やかにPCR検査を実施する。PCR検査の感度は70%前後と決して高くはない。検査結果によらず慎重な経過観察(必要に応じて再検査含む)を行う。

 

 

 

情報発信で風評被害防げ

 

 

新型コロナ感染症の二次災害は風評被害だ。「被災した」ことを地域に隠し切ることは難しい。リスクコミュニケーションが重要になる。適切なオペレーションが行われていたこと、不可抗力による感染の持ち込みがあったが、迅速かつ適切な対応がとられ、感染拡大を最小限に食い止める努力をしていることをきちんと伝える。連携医・協力医からも同様の発信をしてもらうことで、地域の評価をポジティブなものにひっくり返すこともできるだろう。

 

 

 

 

無意味な防災に投資せず職員への人的投資に回すべき

 

 

施設の中には、加湿器を設置する、水の代わりに次亜塩素酸水を噴霧しているところもある。新型コロナを防ぐためにやれることをやりたい、という気持ちは歓迎したいが、加湿が感染リスクを減らすという根拠はないし、次亜塩素酸水の噴霧は健康被害を生じる恐れさえある。「正しく恐れる」ことを意識したい。

 

 

 

まずはリスクを減らす要件を、それぞれの施設で可能な範囲で増やしていく。加湿や薬剤噴霧するよりも窓をあけて換気するほうがずっと安全で健康的だし、食事はテーブルで向き合って食べるよりも、縁側に座り外に向かって食べてもらったほうが安全で楽しいかもしれない。マスクは可能な範囲でしていただく。認知症の人に無理矢理マスクをさせても、外そうと触られてしまっては逆効果だ。

手洗いも全員がきちんとできるわけではない。よく手を触るところを、都度、ワイプするということでもよいだろう。

 

感染源の再確認を

 

 

 

 

要介護高齢者のリスクは新型コロナ感染症ではない

 

そして、リスクを高める要件をできるだけ削減する。一番のリスクは、患者というよりは、若い介護職が家庭や地域で感染することだ。職員は三密を避け、新しい生活様式をきちんと実践していく必要がある。当然、私生活にも大きな制限がかかる。この努力に対して、事業所単位で報いていくことも考えてもよいかもしれない。

 

 

 

2020年6月8日現在、新型コロナ感染症による死者は2月からの4ヵ月間で916人。大部分が高齢者であるとされている。一方、誤嚥性肺炎による死亡者は年11万人超。こちらも大部分が要介護高齢者だ。飛沫やエアロゾルの発生を恐れ歯科・口腔ケアの介入を制限している施設がいまだに存在するが、その結果、低栄養や誤嚥性肺炎の発症が増加していると千葉県歯科医師会は報告している。

 

リスクに対するバランス感覚が失われていないだろうか。高齢者の入浴による事故死は年5000件、歩行高齢者の交通事故死は年4000件発生している。しかし、入浴事故や交通事故を恐れてデイサービスを停止する、という話は聞いたことがない。介護事業所が委縮し、必要なケアが提供されなくなった結果、新型コロナ以外のリスクでQOLや生命を失うようなことになってしまったら本末転倒だ。

 

QOLの維持に大切なこととは何か

 

 

要介護高齢者にとってのリスクと事業運営上のリスクを混同すべきでない。いかなる状況においても、最適なケアを提供しつづけることは医療介護事業者の社会的使命であるし、それを可能とするための体制づくりと備えをしておくことが重要であると考える。

 

 

 

佐々木淳 氏
医療法人社団悠翔会(東京都港区) 理事長、診療部長
1998年、筑波大学医学専門学群卒業。
三井記念病院に内科医として勤務。退職後の2006年8月、MRCビルクリニックを開設した。2008年に「悠翔会」に名称を変更し、現在に至る。

 

 

 

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