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ーー高齢者施設は引き続き警戒をーー

 

自然免疫、獲得免疫の働きから見えてくる 重症化率が低いわけ

7月に入り、新型コロナウイルス感染者数が再び全国で拡大している。政府は観光で経済の活性化を図る「GO TOキャンペーン」に踏み切ったが、集団感染の頻発や病床のひっ迫で再度の緊急事態宣言発令の可能性も一部で囁かれている。そうした中、国際医療福祉大学の高橋泰教授は、「感染7段階モデル」(仮説)で感染の状態を「見える化」。「日本人の3割は既に新型コロナに暴露しており、98%は自然免疫の作用でほぼ無症状で済んでいる」という研究成果を発表した。最悪時の死者数は約3800人と試算。高橋泰教授に「7段階モデル」の概要、重症化率の低さや死亡者が少ないわけを聞いた。

 

 

―――「7段階モデル」を考える契機は。

高橋 新型コロナウイルスの特徴の1つに、獲得免疫の立ち上がりが「遅い」点がある。5月6日に『米国医師会雑誌(The Journal of the American Medical Association)』で発表された論文では、新型コロナウイルスは抗体の発動が非常に遅いことが報告されている。

インフルエンザの場合、ウイルス自体の毒性が強く、暴露(体内に入ること)、感染すると、発熱、咳、鼻汁、筋肉痛など明らかな症状がすぐに出る。そして、発症後2日から1週間で獲得免疫が立ち上がり、抗体ができてくる。なぜ、新型コロナウイルスは抗体の発動が遅いのか。

ここで私たちの研究チームは「新型コロナは毒性が弱いために、生体が抗体を出すほどの『外敵』だと認識せず、自然免疫で処理してしまっているのではないか」と解釈した。その上で、「獲得免疫が動き出すまでもなく自然免疫で新型コロナウイルスを処理してしまい、治癒している場合が多い」という仮説を立てた。これまで、インフルエンザと同じような感染モデルで考えられることが多かったが、新型コロナ独自の感染モデルを考えなくてはいけないと考えている。

 

免疫システムの暴走は1万人から2.5万人に一人

 

―――インフルエンザとは、主にどういう点で異なるのですか。

高橋 インフルエンザとの比較で言えば、新型コロナウイルスは「おとなしい」ウイルスと表現できるだろう。初期から中盤まで、暴露力は非常に強いが、伝染力と毒性は弱く、体内に入り込んでも、多くの場合は無症状か、いわゆる風邪の症状程度で終わる。

しかし、1万人から2.5万人に1人程度の確率で、サイトカイン・ストーム(免疫システムの暴走)や血栓の形成を中心とした重篤化を引き起こし、最悪の場合は罹患者を死亡させる。そこで、新型コロナウイルスについての前提から考え直し、暴露・感染・重篤化の「7段階モデル」を考えた(図表1)。

感染の段階をステージゼロからステージ6までの7段階に分類し、各ステージに至る確率や要因を「見える化」したものだ。今回、独自モデルを構築・発表した背景の1つは、新型コロナの感染拡大を予想する上で必要な数値、例えば、暴露率(新型コロナウイルスが体内に入る率)、罹患者の重症化率、死亡率といった、最も基本的なデータすら現時点では蓄積が乏しいという実情だ。7段階モデルは、まず私たちが何に着目すべきか、その課題の提起でもある。

 

 

 

―――7段階モデルでは「自然免疫」が、軽症と重篤化の分岐点になっています。

高橋 このモデルでは▽日本の人口を1億2644万人とする▽年齢層別の患者実数値▽抗体陽性率の推計値――などをベースにし、「暴露率」をパラメータ(変数)としていくつかのケースを設定し、実際の重症者や死亡者の数値と合致するようにシミュレーションを行った。

その結果、①人口の少なくとも3割程度はすでに新型コロナの暴露を経験しており最大45%が暴露した可能性がある、②暴露した人の98%は「ステージ1」「ステージ2」の無症状か風邪の症状で治癒した、つまり自然免疫で対処できた、③暴露した人の2%で獲得免疫が出動する、つまり抗体が陽性になる「ステージ3」「ステージ4」に至った、④さらに暴露した人の2%のうち、サイトカイン・ストームが発生し重症化(ステージ5)に至った人がおり、20代では暴露者10万人中5人、30歳~59歳では同1万人中3人、60~69歳の層では同1000人に1人、70歳以上では同1000人に3人程度だった、という結論に至った。

―――「10人中3人が暴露」は驚きですが、欧米との違いは何でしょうか。

高橋 この春の「第1波」時における抗体検査では、ロンドンが16.7%、ニューヨークが12.3%、東京は0.1%だった。これまでの解釈では「東京(日本)では感染(暴露)防止は完璧に近かった。だから感染者が少なく、抗体を持つ人が少ない」という考え方が主だが、日本は欧米に比べて強力なロックダウンなどを実施しておらず、新型コロナウイルスへの暴露自体が欧米に比べて極端に少なかったとは考えにくい。

顕著な発症がなかっただけで暴露率に大きな差がなかったのではないか。その差の主因の1つが自然免疫にあると考える。欧米と比べて日本の場合、新型コロナに暴露した人が他者を暴露させたとしても大半が自然免疫で処理され、軽症以上の発症比率は低く、それゆえ抗体陽性率も低くなっている。日本人やアジア系の自然免疫力がなぜ強いかに関してはあくまで仮説で、専門的な研究を待ちたいが、私自身はBCGの影響が関与しているとみている。発症者死亡率も、日本は欧米に比べて低い。理由の1つは、欧米人種に比べて血栓ができにくいことだ。

だから、サイトカイン・ストームが起きても、日本人(アジア系人種)は重症化を回避できる可能性が高い。発症者死亡率について、日本では0歳から69歳まで0.01%、70歳では0.4%だが、欧州の場合、それぞれ0.05%、2%と約5倍を見込んでいる。暴露率や発症率、発症者死亡率は、まだ仮説的段階で信頼度は低いが、今後データが集まれば、より精緻なモデルで日本と欧米、あるいは世界各地の状況を比較検討できるだろう。

 

 

 

―――7月以降、東京を中心にしたPCR陽性者の急増をどう見ますか。

高橋 無症状の陽性者が多い点で、7段階モデルの裏付けになると考える。重篤者や抗体陽性者が少ないという点に注目すべきだ。PCR検査の陽性は、イコール、新型コロナ感染や発症ではない。PCR検査では、体内で自然免疫による処理されたウイルスの死骸にも陽性反応が出る。こうした状態でPCR検査の陽性者全員を「感染者」として捕捉しても、適切な対策は講じられない。

ゆえに、陽性者数に一喜一憂していても意味がない。7段階モデルで示した自然免疫による無症状割合や発症率、重篤化率などを精査すべきだ。若年層を中心に、別のリスクファクターさえなければ発症する可能性も低く、大半は無症状・軽微な症状で治っている点を明らかにしていくべきだと考える。

 

 

どんなに蔓延しても死亡者は3800人

 

―――当初は「日本国内でも数十万人が亡くなる」との推計もありました。

高橋 7段階モデルによる試算では、新型コロナウイルスによる死者は人口10万人対比で0.8人。ウイルス変異などがなく推移すれば、どんなに蔓延しても10万人中3人以上、全人口比で約3800人を大幅に超える死者が出る確率は低い。誤解を恐れずに言えば、国内の自殺者数は景気の悪いときには全国で年間3万人を超えた事例がある。

10万人当たり24人だ。新型コロナ感染を過大に見積もり、経済活動の停滞が進めば、新型コロナで亡くなる人を防ぐためにより多くの犠牲が生じる恐れもある。このジレンマを乗り越えるためにも、新型コロナ対策のメリットとデメリットを数値からしっかり提示し、バランスを考えることが重要だ。重ねて、PCR検査の陽性者数に一喜一憂しないこと。

これはマスメディアを含めて一番重要な点だ。特に30歳未満では重症者リスクが非常に低い。私個人の考えとしては、学校なども平常に戻すべきだと考えている。インフルエンザによる学級閉鎖と同様、明らかな症状が複数の人に現れる集団感染が発生して初めて、学級閉鎖や自宅待機などを行えばよいのではないだろうか。

 

 

 

―――重篤化の確率が高い高齢者などはどう対応すべきですか。

高橋 無論、新型コロナウイルスを過小に評価してもいけない。重ねて強調したいのは、何らかのリスクファクター、疾患を有する人や高齢者ほど重症化リスクが高いという点は言うまでもなく、引き続き警戒すべきだ。その意味でも、若年層の市中暴露をやみくもに追いかける検査よりも、リスクの高い人たち、あるいは高齢者施設や医療機関の対策に重点を置くべきだと考える。

もう一点注視すべきなのは、ウイルスの遺伝子解析だ。従来型との変化――つまり感染力、毒性、死亡率などの変異は常に留意しなくてはいけない。「木を見て森を見ず」。全体像を把握した上で対策を講じなければ、現状は打破できない。

今回のモデル構築は、現時点で得られるわずかなデータからのシミュレーションだが、よりたくさんのデータが明らかになれば、モデル自体、さらに精緻化できるだろう。また、この7段階モデルを通した議論が、現状の何を調べるべきか、どんなデータを集めるべきか、こうしたエビデンスベースの有効な新型コロナ対策を進める上での一助になって欲しいと願う。

 

 

 

【プロフィール】
高橋泰(たかはし たい)氏

略歴
金沢大学医学部卒、東大病院研修医、東京大学大学院医学系研究科修了(医学博士(医療情報))、米国スタンフォード大学,ハーバード大学に留学後、1997年より国際医療福祉大学教授。2018年4月より赤坂心理・医療福祉マネジメント学部長に就任、大学院医学研究科医療福祉管理学分野教授を兼任する。社会保障国民会議や日本創生会議などにおいて高齢者の急増、若年人口の減少に対応した医療・介護提供体制の整備の必要性を提言、地域医療構想などの先鞭をつける。2016年9月より内閣未来投資会議・構造改革徹底推進会合医療福祉部門副会長。

 

 

 

 

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