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新型コロナ再拡大 介護事業をどう支えるか

 

 2021年の介護報酬改定に向けた議論が社会保障審議会の各部会で本格化し、新型コロナ対策も重要論点に挙がる。今春以降、自主休業や利用者の自粛、感染防止のための経費増など介護事業者は厳しい経営環境に置かれており、次期報酬改定に伴い新たな支援策が求められている。議論の方向性を東洋大学の高野龍昭准教授に聞いた。

 

高野龍昭准教授

 

公費による補填拡充で通所・訪問の経営支援

 

---新型コロナ感染症の拡大が介護業界に大きな影響を及ぼしています。

高野 高齢者介護の現場で危機感が高まった契機の1つは、3月上旬に名古屋市が、通所介護施設での利用者の感染確認を受けて2区で休業要請を行ったことだ。行政が発生施設や感染経路など具体的な情報公開を控えたことで「介護施設は危ない」というメッセージ性を含んで伝わり、ショートステイや訪問系も含む介護サービス全般に影響が及んだ。

 

自主休業や利用者側の手控えなどが全国的に広がった結果、事業所側では収益減少や風評被害が生じるとともに、サービスの利用者にも心身機能の低下など悪影響が出ていることが、その後の研究調査などで分かっている。

 

一方、海外の介護施設に比べて日本の施設における感染症対策は優秀で、それが重症化率や死亡率の低さとして表れているが、当初から医療崩壊に注目が集まり、介護崩壊という問題意識は現場レベルにとどまっていたように感じる。

 

 

 

---悪い意味で「現場任せ」が多い印象があります。

高野 厚生労働省も2月以降、新型コロナに関連して感染症の防止対策やマニュアル、また、人員配置や基準緩和、介護報酬の特例などを次々に出している。ただ、膨大な分量で事務的な通知が多く、あまりに煩雑で全体を読みこなして理解すること自体が負担になった、という現場の不満もよく耳にする。

 

私自身、ケアマネジャー経験があるので気になったのは、特例的な介護報酬の算定などを、ケアマネがどれだけ理解できていたかという点だ。給付管理業務はケアマネの役割だが、厚労省からの事務連絡を網羅的に理解できず、事業所との意思疎通も不十分で、結局、特例措置を利用できていないケースもあると聞く。その点では、行政の分かりやすい情報提供、ケアマネと事業所間の情報共有も、新たに浮き彫りになった課題と言える。

 

 

 

---事業者支援を目的とした介護報酬の特例には賛否があります。

高野 非常に重要な問題だ。介護報酬を引き上げて事業者を支援する、という考え方もあるが、利用者の負担を伴い、総額として区分支給限度額を削ることにもなる。そもそも新型コロナ対策は介護保険の「保険事故」対象ではない。私は、公費、税財源で補填すべきだと考える。

 

デイ、ショートを対象にした2区分上位の評価など、事業者側が対応に困惑する措置もある。提供していないサービスを上乗せすることで、支給限度額との関係から利用者からは「サービスを使う回数が減る」といった不満が出る。初期の「通所を訪問に代替できる」などは悪いアイデアではないと思うが、こうした負担を伴う措置で利用者も巻き込む形の支援は、余計に混乱や手間を起こす。

 

 

---全国的に収束時期が見えない混沌の中、事業者の経営はさらに厳しくなりそうです。

高野 新型コロナ以前から、訪問や通所サービスは利益が出るか否かといった水準での経営を強いられている。特に15年の報酬改定以降、軽度者が地域支援事業に移り報酬が著しく減額されるなど、経営体力は弱まっている。そこに、こうした異常事態が重なりそれが長期化すれば深刻な経営ダメージは避けられない。こうした状況は、次回の介護報酬改定で問われるべきだと考える。

 

 

 

---社会保障審議会でも次期改定に向けた議論が本格化してきました。

高野 細かい点でいえば、介護事業所における感染症対策に何らかのインセンティブを付けて、感染症の専門性をより高めることが必要だ。ここまで現場主導で頑張ってきているが、介護分野の感染症といえば、従来はインフルエンザ、ノロウイルス、古くは疥癬といったものが主だった。

 

しかし、新型コロナウイルスはこれまでと違う感染症だ。防護服の着脱、ゾーニングなど介護従事者も今後はしっかり学んでおくことが大切だ。それに応じた業務量や経費負担も増している。また、職員一人ひとりの精神的なストレスも大きい。医療現場と同レベルで介護現場を評価してもいいのではないか。介護崩壊を防ぐことは、医療崩壊を防ぐ上でも重要だ。

 

 

出所:厚生労働省資料より抜粋

 

 

 

財源確保、難しい課題

 

---事業者支援はどこまで盛り込めるでしょうか。

高野 先に指摘したように、介護報酬での手当ては介護保険の趣旨に照らすと非常に難しい問題だ。公費による支援が望ましいと述べたが、現実的に冷静に分析すると財源の問題がある。新型コロナ感染症の再拡大で収束時期を含めて先行きが不透明な社会情勢の中、経済活動自体の縮小が続いている。介護業界もその一部だ。第1波の対策で国は約60兆円の新規国債を発行するなど、すでに財源は厳しい。

 

 

今後、景気悪化などで税収は落ち込む。2号被保険者の保険料負担増も、労働者団体や経営者団体が難色を示すだろう。いくら介護業界ががんばったからといって、報酬のプラス改定に皆が諸手を挙げて賛成、とはいかないことは理解しておくべきだ。率直に言えば、総体で前回18年改定のプラス0.54%並みを確保できれば及第点ではないだろうか。

 

ただ、訪問や通所サービスは、何らかの手を打たなくては担い手がいなくなり、そこから介護崩壊が起きかねない。さらにいえば、新型コロナ問題の長期化は、介護のあり方を大きく変えてしまう恐れがある。例えば、地域包括ケアシステムは今後どうなるのか。

 

4月時点の経営への影響【サービス別】

 

 

「高齢者の通いの場」や地域住民の自発的な支援など理念の正しさは変わらないが、現実に機能させられるのか。改定に向けた議論では、介護関係団体が一致団結して問題提起を行うべきだ。

 

 

 

 

高野龍昭氏(たかの たつあき)
社会福祉士・介護支援専門員。龍谷大学文学部社会学科(社会福祉学専攻)卒業後、医療ソーシャルワーカーとして勤務。在宅介護支援センターでのソーシャルワーカー、居宅介護支援事業所でのケアマネジャーとしての活動を経て現職。主な研究分野は高齢者のケアマネジメント・システム、介護保障の政策論など。

 

 

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