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食の喜びをプリントアウト

3次元の設計データを元に素材を立体成形する3Dプリンタの活用が急速に広がっている。一般に硬い樹脂が原材料として使用されることが多い中、柔らかい素材を出力できる3Dゲルプリンタを世界に先駆け開発した国立大学法人山形大学(法人本部・山形市)では、この技術を応用し、ソフトでありつつ食感もある介護食など、ユニークな食品製造の試みが続けられている。プロジェクトの概要について、川上勝先生にお話しいただいた。

 

山形大学 川上勝先生

 

 

地元貢献をきっかけに

―――先生は、これまで神戸大学やイギリスのリーズ大学などで生物学、物理学、化学に関する幅広い研究・開発を行われてきたとのことですが、どのような経緯で介護食に携わるようになったのですか?
もともとモノを作ることが好きで、山形大学では2014年から、3Dゲルプリンタを利用した様々な研究開発に携わってきました。その一環で、キャンパスのある米沢の食産業、観光業にも貢献できればと、地元企業と協力してお菓子などを作ることにしたんです。

 

 

最初は米沢ゆかりの鯉料理にちなんで、3Dプリンタで成形した型にゼラチンや豆乳を流し込んだ錦鯉の形のゼリーを作り、その後、食材を直接出力(造形)できる食品3Dプリンタを開発し、第1号としてクッキーを作りました。

全てのはじまり「3D恋鯉ゼリー」(提供:山形大学)

 

やがて、ある介護食製造・販売メーカーから、「食感を変えられないか」と打診されました。噛む力が弱い人向けの介護食は大抵ムース食やソフト食、噛まずに飲み込めるどろどろのレトルト食で、この会社もそうした食品を作っていましたが、やはり食感が悪い。柔らかくてもきちんと食感のある新しい介護食を作りたいとの希望でした。

 

 

このメーカーとのコラボレーションが、介護食分野に進出するきっかけとなりました。売り上げの伸びももちろん大切ですが、単調な噛みごたえを少しでも改良し、食べる喜びを味わってもらいたい、という思いが、開発を進める原動力になりました。

 

 

 

―――具体的には、食品3Dプリンタを使ってどのように食品を作るのですか?加工に適した食材、適さない食材などはありますか?
ミキサーでペースト状にした食材に、水と、介護食でよく使う「まとめるこ」などの増粘剤を少量加えて〝インク〞を作ります。これを固定ノズルを通して徐々に押し出していき、その下でタイミングよくXY軸方向に動く造形ステージで受け止め積み上げていくことで、食品が造形されます。単体だったノズルを2つに増やして2種類の材料を出せるようにしたことで、色と形の幅も広がりました。

 

 

たとえば、かぼちゃを作る際には本物のかぼちゃをすり潰し、左側のノズルからオレンジの実の部分を、右側のノズルから緑の皮の部分を出します。
緑を加えるだけで、よりかぼちゃらしく見えますし、実際に両方の部分をスプーンですくって口に入れた時、かぼちゃの甘みとちょっと苦い皮の味が混ざって「あ、かぼちゃを食べているな」と感じます。この体験・経験がとても重要です。同様に、鮭の形に加工されたムース食ではなく、ちょっとしょっぱくて香ばしい皮の部分まで印刷で再現した〝焼き鮭〞を食べることで、風味の広がり、食のリアリティーが生まれるんです。
粒が大きかったり繊維質が多かったりする食材は、食感があまり良くないしプリンターに詰まることもあるので、介護食には向きませんね。また、食品に限らず、やはり柔らかい素材は造形ステージの動きに連なって動いたり変形したりしてしまうので、現在のディスペンス技術では思った通りの形を作るのが非常に難しいです。

 

実と皮が別々のノズルから吐出され、かぼちゃが造形されていく(提供:山形大学)

 

 

 

―――食品レパートリーも含めたプロジェクトの現在の進捗状況についても教えてください。
介護食に関して言えば、ブロッコリーやにんじんといった野菜が5、6種類くらい完成しており、大手食品メーカーを含む4、5社と、介護食だけでなくお菓子の開発も進めています。ただ、新型コロナの影響で試食試験ができないため、商品化は3年後を目標にしています。

 

 

3Dプリンタへの期待度が皆さん高くて、魔法の製作装置といったイメージを持たれることも多いのですが、実際には現段階で使える材料には制約があり、作れるもののレパートリーも多くはありません。確かに理論的にはノズルの数を増やすことで作れる食品も増えますが、出来上がり時間も指数関数的にどんどん長くなってしまうのです。

 

 

課題は硬さと食感

現時点では、見た目そっくりに食品を再現することはできても、硬さや食感を制御できるまでには至っていません。ですから、ノズルの形状や材料の分子性の研究などと並行して、インクの組み合わせ方や吐出方法によって歯ざわりがどう変わるのか、たとえばノズルの一方に硬い素材、もう片方に柔らかい素材を入れ、真ん中は硬めに、外に向かうに従って柔らかくなるように造形することで、うどんのコシのような食感を生み出せないか、といった研究をさらに進めていく予定です(後編10月7日号に続く)。

聞き手・文 八木純子

 

 

山形大学 川上勝先生

有機材料システムフロンティアセンター

プロジェクト教員(准教授)

 

 

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