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「できる限り在宅で」変わる潮目

 

新型コロナの感染拡大で私たちの社会はいま大きく変化しつつある。三密を避ける、マスクを着用するなど、新しい生活様式に加えて、医療や介護のあり方にも影響を与えている。特に病院との付き合い方が大きく変わったという人が少なくないのではないだろうか。

 

これまで2週間に1度ずつ、主に薬をもらいに通院していたという患者は、60日処方などの長期処方でも十分に疾病管理ができることに気づいた。通院そのものが感染リスクを伴う行為であるという認識の広がりもあり、緊急事態宣言が終了してからも、外来患者数が以前のレベルまで戻らないという医療機関は少なくない。

 

そして、もう1つの大きな変化が入院だ。第一波では大学病院など地域の中核となってきた高度医療機関やブランド病院でも院内感染が相次いだ。病院は感染リスクのコントロールのため、入院患者に予備的検査を課し、家族の面会を禁止するとともに、コロナ受け入れ病院を除く多くの病院で、発熱患者に対する受け入れ制限を行っている。

これにより在宅医療と病院との関係性にも変化が生まれつつある。

 

これまでなんとか病院への通院を継続していた「在宅医療導入境界域」の患者の在宅医療への転入が増えている。病院受診に対する不安に加え、公共交通機関を使っての通院そのものへのリスク意識の高まりから、ケアマネジャー経由の紹介が増えている。

 

また、病院からの患者紹介も増加している。特に予後の見通しの厳しい(余命が日から週の単位と見込まれる)入院患者の退院支援だ。最後に、家族と一緒に過ごせる時間を作りたいというニーズが、在宅復帰の大きな後押しとなっている。

 

 

 

逆に、在宅から病院へのハードルは高くなっている。在宅患者の緊急入院の約4割が肺炎や尿路感染などの発熱性疾患だ。これらの発熱性疾患に対し、新型コロナ感染症の除外診断ができていなければ入院を受け入れたくない、という病院が少なくない。首都圏のある自治体の地域ケア会議では、通常であればスムースに入院できるものが、受け入れ先病院の確保に難渋し、やむなく救急要請したというケースが複数報告されていた。

 

 

一方で、患者側も入院という選択を忌避するようになっている。「何かあれば入院で」から「できる限り在宅で」という大きな流れが生まれつつあるように思う。特に看取りについては、最後の時間を一緒に過ごしたいという思いから、何があっても自宅や施設で最期まで、とはっきりと意思表示される患者・家族も増えている。

 

 

 

実際、医療法人社団悠翔会では、2020年の4月〜7月の4ヵ月間における患者死亡者数は、在宅死287人・病院死119人であった。2019年の同時期(在宅死203人・病院死120人)に比較すると、全死亡者数が大幅に増加、しかも増加分のすべてが在宅死であり、看取り数は40%以上も増加している。予後の厳しい入院患者の看取り目的での在宅復帰の増加、在宅患者の入院の忌避傾向が明らかであると感じる。

 

 

この変化は、コロナ禍における一時的なものではないだろう。外来患者も、在宅患者も、これまで当たり前だと思っていたことが、必ずしもそうでないことに気づきつつあるとともに、医療機関との新しい付き合い方を模索している。

 

 

これまでは「通院しないといけない」「入院できたほうが安心」と思っていた。しかし、実はそうではない(もちろん例外はあるが)。そして、このことは医師自身もそれとなく感じていたはずだ。
もはやコロナが怖いから病院に行かないのではない。患者は病院に行く必要を以前ほど感じなくなっているのだ。コロナ禍でも発熱患者を断らなかった診療所には、外来患者がきちんと戻っている。

 

 

 

医療機関はいまこそ、患者の真のニーズをキャッチする努力をすべきだし、地域住民はそれを見ている。

 

 

 

佐々木淳 氏
医療法人社団悠翔会(東京都港区) 理事長、診療部長
1998年、筑波大学医学専門学群卒業。
三井記念病院に内科医として勤務。退職後の2006年8月、MRCビルクリニックを開設した。2008年に「悠翔会」に名称を変更し、現在に至る。

 

 

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