---連載 点検介護保険---
厚労省は9月18日、介護・医療サービスを「新型コロナウイルス感染の懸念を理由に制限することは不適切」との通知を再度出した。サ高住と住宅型有料老人ホームの利用者が望む介護・医療サービスの制限は「不適切」と断じた4日の通知に次いで、ケアハウスや特定施設などの入居施設と小規模多機能の利用者向けにも同様の内容を示した。訪問系の診療、看護を想定したものだ。
介護・医療サービスの利用が現場でいかに大きく制限されているかが分かる。施設では家族など訪問者の面会をいまだに拒絶しているところが多い。認知症ケアには人間的交流が欠かせないはずだ。「3密」回避や外出制限の行き過ぎが収まらない。
「コロナ禍」の実態は感染者数でなく死者数で見るべきだろう。9月28日時点で1544人。フランス、スペイン、イタリアの3万人台、英国の4万人台に比べ桁数が違うほど少ない。
国内の他の死因と比べてみる。2019年の交通事故死は3715人、自宅浴槽での溺死は5166人に上る。コロナ死よりはるかに多い。だが、交通事故を防ぐために「車に乗らないように」とは言われない。浴槽は危険だから「入浴は止めましょう」という行政からの自粛要請はない。
身体に関わる死因ではどうか。インフルエンザによる死者は3517人。インフルエンザが元で他の死因に算定される人は1万人前後と言われる。また、高齢者に多い誤嚥性肺炎の死者は、なんと年間4万335人だった。では、誤嚥をなくすため「食事は口から食べないように」「胃瘻に切り替えましょう」という要請が大勢だとは思えない。そんな指導する医療機関がないとは言えないが…。
実は、医師が記す死亡診断書では、誤嚥性肺炎で亡くなっても、肺炎と書かれることが多い。死亡診断書には第三者のチェックがなく、立ち会った医師の「独断」で決まる。訪問診療のベテラン医師の推計では、肺炎死の7割ほどは誤嚥性肺炎だという。すると、2019年の肺炎死は9万5498人だから、7割分を加えると約10万7千人が誤嚥性肺炎死となり、月間約9000人にも達する。
他の死因と並べると、コロナへの対応は異常と言わざるを得ない。どう見てもバランスを欠く。社会のインフラを止め、文化を沈黙させ日常生活を壊すほどのことなのか疑問を感じてしまう。
次に、亡くなるのはどの世代か。8月26日時点で把握できた死者1184人の年齢別内訳を厚労省が公表している
80歳以上の死者が684人で全体の57.8%を占める。70歳代の死者312人を合わせた70歳以上の比率は84.1%となり、大半を占める。一方、2019年に亡くなった日本人は138万1098人。その年齢別をみると、70歳以上は85.0%である。コロナによる死者と1ポイント弱しか違わない。2018年以前でもほぼ同様だ。注目すべき事実である。
共に死者の多くは高齢者。コロナ死でも年齢別比率は例年と変わらないということだ。加齢によって免疫力が弱まっていく高齢者が亡くなるのは、自然の摂理だろう。極めてまっとうな出来事。コロナ対策を特別視することがいかに奇妙なことかが分かる。
浅川 澄一 氏
ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員
1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。