“最強の”監督コンビが名もなき英雄たちを輝かせる

このコロナ禍において、映画館に足を運ぶ機会も少なくなっているが、今回は、9月11日から全国公開中の映画をご紹介したい。

強面の2人の男が、「何とかする」を叶え続け、ひたむきに守ってきたものは…『スペシャルズ!政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話』。

『スペシャルズ!政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話』

■『スペシャルズ! ~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~』
■TOHOシネマズシャンテ他にて全国順次公開中
■©2019 ADNP-TEN CINÉMA-GAUMONT-TF1 FILMS PRODUCTIONBELGA
PRODUCTIONS-QUAD+TEN
■配給:ギャガ

 

 

2012年に全世界で大ヒットした映画『最強の二人』の監督、エリック・トレダノと相棒オリヴィエ・ナカシュのコンビが描く最新作だ。26年前、まだ新人だった2人が、自閉症の子供たちと、ドロップアウトした青少年の社会参加を支援する団体「L e S i l e n c edes Justes」の創始者、ステファン・べナムと、若い教師ダーウド・タトゥに出会い、彼と仲間たちの沸き立つエネルギーと、どこまでも人間らしい深い愛情と力強さに感銘を受けたという。当時、駆け出しのトレダノとナカシュには、潤沢な資金もなかったため、彼らの長編映画を撮ることを断念したが、いつか必ず映画にすると誓いを立て、彼らとの親交は続けていた。

 

 

 

その後、フランスの有料民間テレビ局「Canal+」から26分番組の制作を依頼され、彼らの団体についてのドキュメンタリーを作る機会を得た。そこから、さらに監督のハンディキャップやノーマライゼーションへの関心が高まり、映画『最強の二人』が生まれたのだという。

 

 

主演のブリュノ役には、名優ジャン=ピエール・カッセルを父に持つ、ヴァンサン・カッセル、マリク役をレダ・カテブに依頼。二人はどう見ても悪役向きだが、ブリュノとマリクが「何とかする」全力の日々は、まるで聖人そのものだ。その振る舞いは、時にコミカルで、強面だからこそさり気なく、肝の据わった包容力を醸し出す。ブリュノが運営する自閉症ケア施設「正義の声」では、ほかの施設で断られた子供達も受け入れる。一方のマリクは、社会からドロップアウトした若者たちの就労を支援する団体「寄港」を運営する。「正義の声」と「寄港」との協力関係は、理にかなった仕組みだ。貧困や様々な問題で居場所がなくなった若者たちにとって、自閉症の子どもたちと接することは、自身の居場所を作ることでもあった。

 

 

 

過剰な薬剤投与や拘束、その副作用で笑顔もなくなっていた彼らの恐れや怒りに思いをめぐらせることの大切さを、ブリュノは支援者となる若者にアドバイスする。ある日、15年続けてきた施設に危機が訪れる。無認可の組織の閉鎖を目的に社会問題総合監査局(IGAS)が調査にあたるのだが、誰にとってもブリュノは英雄でしかない。重度の自閉症であるヴァランタンの主治医は、「医学は手順が決まっているけど、彼らは違う。心と信念で動いている。〜患者が凶暴で危険すぎても断らない。どうなったと思う?…彼らは正しかった」と語り、いよいよ調査はお手上げ。

 

 

 

エリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュの監督コンビの作品に共通するのは、誰も取り残さず、ギャップをフラットに捉える視点だ。観るものが、人生を豊かにする着想を得られる。そして本作のクライマックスともいえる、各々の世界観が融合するダンスシーンは、誰もが心の浄化を体感するだろう。監督が満を持して映画化に臨んだ最新作を、ぜひ、ご堪能いただきたい。

 

 

小川陽子氏
日本医学ジャーナリスト協会理事・広報委員。国際医療福祉大学大学院医療福祉経営専攻医療福祉ジャーナリズム修士課程修了。同大学院水巻研究室にて医療ツーリズムの国内・外の動向を調査・取材にあたる。2002年、東京から熱海市へ移住。FM熱海湯河原「熱海市長本音トーク」番組などのパーソナリティ、番組審議員、熱海市長直轄観光戦略室委員、熱海市総合政策推進室アドバイザーを務め、熱海メディカルリゾート構想の提案。その後、湖山医療福祉グループ企画広報顧問、医療ジャーナリスト、医療映画エセイストとして活動。2019年より読売新聞の医療・介護・健康情報サイト「yomiDr.」で映画コラムの連載がスタート。主な著書・編著:『病院のブランド力』「医療新生」など。

 

 

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