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3Dプリンタ研究開発の「聖地」とも言われる国立大学法人山形大学(法人本部・山形市)で、食感の良い介護食作りなど新たな可能性に挑戦し続ける川上勝先生。

「暴走すると怖い、という負のイメージがつきまといがちな科学ですが、多くの科学者は人類の未来について真摯に考え頑張っています。その取り組みを温かく見守って」と語る自身が最も重んじるデータは、もしかしたら数値化できない〝思い〞や〝感情〞といったものなのかもしれない。

 

(前編はこちら)

 

―――3Dプリンタを活用して、食以外にもさまざまなプロジェクトを牽引されていますね。
一例として、山形大学医学部と共同で、臓器模型を作って手術前の練習やシミュレーションなど医療技術の向上に役立てるプロジェクトを進めています。また、医療メーカーと連携し、将来的に再生医療用の臓器の作製も視野に入れています。バイオから化学、食べ物まで、作れるものの可能性は無限大です。この6年間で、山形大学は3Dプリンタの総本山的なところまで到達できたのではないかと自負しています。

 

 

 

 

臨機応変なモノ作りを

コロナウイルスの感染拡大に伴って、「モノ作り」の姿勢も問われることとなりました。これまでのように、発注先の要望に沿って単に製品を作り続けるだけでは、素材が入手できなかったり注文自体が途絶えたりしたときに手も足も出なくなってしまいます。でも逆に、この材料があるからこれを作ろう、といった形でフットワーク軽く臨機応変にモノ作りができるようになれば、日本の産業・ビジネスはもっと力強いものになるはずです。その動力となるのが3Dプリンタやロボットといったテクノロジーで、自分たちがすべきは、そうした新たなモノ作りのノウハウを率先して研究し、伝えていくことではないかと思うのです。

 

 

 

業務用と家庭用の食品3Dプリンタのモックアップはすでに作っているんですよ。イメージとしては、メニューボタンを押すと、オーダーがアマゾンなどに直結して欲しい食材カートリッジが届き、それを使って3Dプリンタで硬さや塩分などを自在に調節しながら食事を作ることができます。個人の好みなどがデータとして蓄積されていくので、おすすめの献立も提案してくれたり。50年後100年後には、こうしたことが実現しているかもしれません。

家庭用食品3Dプリンタの模型「ヘスティア」。ギリシャ語で「竃」を意味する。(提供山形大学)

 

 

―――あらゆる食をデータ化・共有し、ダウンロードして実際に味わおうという「OPEN MEALS」構想に山形大学も参加されていますが、これにもつながるようなアイデアですね。ゆくゆくは人間の食のあり方も変わっていくのでしょうか。

現時点ではかなり夢物語のような部分もありますが、たとえば世界中の料理をデータとして入手できれば、わざわざ海外へ行ったり東京のどこかのレストランへ行ったりしなくても、もっと手軽に美味しいもの、これまで食べたことがないような新しい食に出会えるかもしれません。流通の制限も受けませんしね。

 

 

 

今3Dプリンタは、どちらかというと幾何学的な形や無機質なサイバー感をわざと強調しているようなところがあって、それで作った食品も、宇宙食や培養肉など近未来的なイメージがあります。でも私は、やはり人間の好みというのは、最終的に天然素材とか美味しそうな盛り付けといった〝手作り感〞、〝アットホーム感〞に行き着くものではないかと思っています。そういう意味で、本来は人間が作るものが一番ですし、やはり職人さんには敵いません。

 

 

 

しかし一方で、〝手作り〞とは言い換えれば「手間」でもあります。自分たちの介護食プロジェクトは、天然素材を使ってはいても介護者の手間ばかりかかり見た目も食感も悪い介護食の現状を何とかしよう、というところからスタートしているんですね。病院や施設で個々の利用者に合わせて毎日手作業で介護食を作る代わりに食品3Dプリンタを使えば、たとえ初期投資として数百万円かかったとしても、長期的な人件費削減につながります。
ですから、理想は3Dプリンタで手間を減らしつつ、柔らかいながらもきちんとした食感があって見た目も味も複雑で美味しいものができることです。ただ、手料理の良さがなくなることは決してありません。プリンタ食が今の食に取って代わるのではなく、両者が共存していくのだと思います。

3Dプリンタで作成された腎臓の臓器模型(提供山形大学)

 

 

―――どんなに技術が進んでも、やはり鍵となるのは「人がどう感じるか」ということなのですね?
そうですね。実は、新型コロナの緊急事態宣言が出る直前に家族が大阪に引っ越したため、いま米沢で単身赴任中です。なかなか行き来できず辛い状況なのですが、週末、互いにSkypeのビデオ通話でつながり、大型液晶テレビの画面を通して一緒に食事していると、あたかも皆が同じ食卓を囲んでいるような気持ちになるんです。これが非常にありがたいですね。

 

 

 

共に、同じものを食べる

一番幸せな「人間の形」って、誰かと一緒に美味しいご飯を食べている姿だと思うんです。原始の時代に焚き火を囲んで食べていた人間のDNAが、現代人の中にも刻まれているのかも。共に食べ、家族の結びつきを感じることは、健康を実感することでもあります。「おばあちゃんは介護食のスープね」ではなく、見た目だけでも家族と同じものを食べることができれば、ひょっとしたらそれだけで、幸せだと感じられるかもしれない。

 

 

 

はじめてザッハトルテを食べたとき、「こんなに美味しいものがあるのか!?」とびっくりしました。3Dプリンタをはじめとする情報技術の力を駆使して、こうした新しい発見や驚き、喜びや幸せを生み出すことができたら、と思うんです。

聞き手・文 八木純子

 

 

山形大学 川上勝先生
有機材料システムフロンティアセンター
プロジェクト教員(准教授)

 

 

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