【連載第164回】情報共有の工夫がカギ

あるデイサービスで送迎車が人身事故を起こしました。送迎時に保育園の脇を通過中、お迎えの母親の陰から飛び出してきた園児と接触したのです。幸い軽症で済みましたが、所長はドライバーを集めて再発防止策を徹底しました。ところが、去年も同じ場所でヒヤリハットがあり、ヒヤリハットシートが提出されていた。にもかかわらず、防止対策に活かされず事故に至ってしまったのです。もっと効果があがるヒヤリハット活動の方法はないのでしょうか?

■事故防止に活かされないヒヤリハット

 

このデイの所長は、日頃から事故防止活動に熱心に取り組み、「ヒヤリハットシートをもっとたくさん出すように」と職員を厳しく指導している人でした。その事故防止活動の管理者が、提出されたヒヤリハットシートの情報を読みもせずにバインダーに眠らせていたのですから、所長は立場がありません。

 

”ヒヤリとした””ハッとしたという事故寸前の体験を記録し、この情報を職員が共有して事故防止に活かすことが、ヒヤリハット活動の目的です。ところが、このデイではヒヤリハットシートを書いて提出することが活動の目的になっていて、ヒヤリハットシートが事故防止活動に全く活かされていませんでした。ヒヤリハット活動本来の目的が忘れられ、形骸化しているのです。

 

特別養護老人ホームなどの施設でも同じことが言えます。ヒヤリハット情報を、シートに書いて提出するだけで、ほかの職員との情報共有さえできていないのです。せめて「ヒヤリハット情報は毎朝の会議で報告する」というルールにしては、どうでしょうか?そうすれば本事例のヒヤリハット情報も共有されて、人身事故は防げたかもしれません。

 

 

 

■自動車事故のヒヤリハット情報はどのように共有すべきか?

 

さて、送迎中の自動車事故のヒヤリハットは会議で報告するだけで正確な情報が共有できるのでしょうか?転倒のヒヤリハットであれば「〇〇さんの歩行介助中に膝折れして転倒しそうになった」という情報を共有できれば、ほかの職員もその利用者の歩行介助時に膝折れによる転倒に備えることができます。

 

しかし、送迎中の自動車事故のヒヤリハットの場合、ヒヤリハット発生地点を正確に把握して、危険に備えた安全運転をしなければなりません。ヒヤリハット発生地点は、ヒヤリハットシートの文書を読んでも、また住所で示されても正確に把握することはできませんし、具体的なリスクの発生状況も文字では把握しきれません。

 

自動車事故のヒヤリハットは、シートに書いて提出して文字で情報共有するには適さないのです。では、ヒヤリハット地点と具体的なリスク発生状況を、どのような方法で共有したら、自動車事故防止に活かせるのでしょうか?

 

 

 

■ヒヤリハット発生地点は危険箇所マップで共有

 

東京都のある社会福祉法人では、全てのデイでヒヤリハットをビジュアル化する取り組みをしています。具体的には、ヒヤリハット発生地点を地図上で把握し、ドライブレコーダーの動画でリスクの発生状態をビジュアルで把握する活動をしているのです。その方法をご紹介します。

 

まず、送迎エリアを1枚の地図にしてデイルームの隅に貼り出します。送迎中にヒヤリハットが発生すると、ドライバーはヒヤリハットシートを記入し提出した後に、マップ上のヒヤリハット発生地点に付箋を貼ってどのようなリスクが発生したのかを書き込みます。

 

次にドライバー全員でドライブレコーダーの動画を見るのです。自転車が飛び出してきた動画を見るだけで、ドライバーは思わず右足を突っ張ってしまいます。動画で情報共有することで実体験に近い記憶が残りますから、ドライブレコーダーの活用は自動車事故の防止活動では必須の対策となっているのです。新しいドライバーを採用したときには、危険箇所で埋まったヒヤリハットマップの送迎エリアを何度も確認してもらいます。

 

 

安全な介護 山田滋代表
早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険株式会社入社。2000年4月より介護・福祉施設の経営企画・リスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月より現株式会社インターリスク総研、2013年4月よりあいおいニッセイ同和損保、同年5月退社。「現場主義・実践本意」山田滋の安全な介護セミナー「事例から学ぶ管理者の事故対応」「事例から学ぶ原因分析と再発防止策」などセミナー講師承ります。

 

 

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