高齢者施設の水害被害防止を考える有識者会合が7日、国土交通省で開かれた。国交省と厚生労働省が共同で設置し、「令和2年7月豪雨」により職員も合わせて14名が犠牲になった特別養護老人ホーム、千寿園(熊本県球磨村)の被災事例などに基づいて議論し、20年度中に報告書をまとめることになった。

 

 

国交省で開かれた「令和2年7月豪雨災害を踏まえた高齢者福祉施設の避難確保に関する検討会」の第1回会合では、座長に鍵屋一・跡見学園女子大学教授を選出。委員には公益社団法人全国老人福祉施設協議会(全国老施協)の鴻江圭子副会長、岩手県岩泉町の佐々木重光危機管理監、長野県建設部の藤本済・砂防課長らが就いている。
今回の検討会では千寿園の事例など過去の被害状況や制度改正の経緯を検証した上で、

▽避難の実効性の確保
▽避難計画(避難確保計画、非常災害対策計画)の作成など促進
▽災害リスクの周知、まちづくりにおける取り組み
―――の3点を論点にしている。

具体的な目標として、避難計画の策定などは21年度末を目標に全ての福祉施設で作成を完了、さらに不動産取引時の水害リスクの周知に加え、災害レッドゾーンにおける開発許可の原則禁止、洪水ハザードエリアなどの市街化調整区域における開発許可の厳格化を進める方針とした。

 

 

 

厚労省「福祉版EMISを」

第1回会合では7月4日に起きた千寿園での冠水被害に関し、事前の避難計画や訓練状況、被害直前までの詳細な時系列に基づく避難行動などが明らかにされた。

 

同施設は2000年に開所、定員40名の広域型特養と、定員10名の併設ショートステイ、定員20名の千寿園別館まごころ(地域密着型特養)を有していた。
18年4月には避難確保計画も作成、毎年2回の避難誘導訓練などを実施していた。
被災時は短期利用者を含む70名が滞在。球磨村は7月4日午前3時30分に「避難指示」を発令。千寿園も避難確保計画に基づき施設1階へ避難を実施したが、同計画は土砂災害の危険性を重要視し、洪水による浸水被害は低いと考えていた。

 

 

 

千寿園での被災を通じて見えてきた避難の課題としては、避難確保計画がすべての事象(自然災害)に対応できておらず、計画に定めた避難先(屋外)への避難が現実的に難しいこと、また避難誘導する職員が参集できず要介護が高い人を、階段を使って上層階へ避難させることに時間を要したなど、実効性の担保が挙がっている。

 

 

 

■6月に都計法改正

国土交通省は都市計画法及び都市再生特別措置法を6月に改正。「災害レッドゾーン」では開発許可を原則禁止とし、浸水ハザードエリアなどの開発許可の厳格化を公布したばかりだ。将来的には災害ハザードエリアからの移転促進も視野に入れるが、これらは市区町村の役割となる。熊本県老施協会長でもある鴻江委員は、平常時に現地を訪れ、被災後に支援に取り組んだことを踏まえ、「施設横の小川、球磨川も穏やかで水量は少ない。要介護3以上の人が入居する特養は、避難開始の判断が大変難しく、一般避難所への避難も難しい。災害時の夜間、職員参集や搬送の困難さも課題」と指摘。地方都市の場合、地域全体が山間部や河川沿いの土地という特性も付け加えた。

 

 

 

厚労省老健局の齋藤良太・高齢者支援課長は「特養などの立地に特化した統計はないが、福祉施設版のEMIS(広域災害救急医療情報システム)を構築しており、その中で施設の場所をプロットできれば、と考えている」と明らかにした。

 

 

 

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