「負担と給付」の議論再燃
朝日新聞が10月11日に「介護保険料滞納 差し押さえ最多」「18年度65歳以上の高齢者1.9万人」と1面トップで報じた。生活保護受給者より収入がある低年金高齢者が増えたためという。

 

 

 

6日前の5日に、読売新聞が同じ厚労省調査を報じている。朝日は後追いではあるが、日曜の朝刊で大きな扱い。初報道であるかのような印象を読者に与え、多くの家庭で話題になったであろう。ただ、ペナルティーとしての3割負担を課された実態について両紙とも言及がないのは残念だ。

 

 

日本経済新聞の「経済教室」欄で9月24日と25日に結城康博、高野龍昭の両論客が「介護危機の現状と課題」をテーマに寄稿した。「人材不足対策として訪問介護を自治体の直営に」(結城氏)、「給付は要介護3以上で」「2号被保険者を20歳以上に」(高野氏)などを提言。給付と負担の議論の格好のたたき台に。
読売新聞の連載「介護保険20年」で9月23日、評論家の樋口恵子さんが、介護保険の安定財源として「公費負担を重くするため、消費税率の引き上げも検討すべき」と明言した。注目すべき発言だ。介護サービス縮小への反対論が多い中、財源に踏み込み、一石を投じた。

 

 

コロナ対策で始まったオンライン診療が菅政権の目玉施策となっている。恒久化が決まり中身が問われる。11日の産経新聞は「政府と日医攻防」の見出しで、抵抗する日本医師会の言い分を詳述。「初心者へのリスク計り知れない」とする建前の奥に「減収になる」「評判の良い病院に患者が集中してしまう」と本音を明かす。
重要課題だけに、現場の医師の声を伝えるメディアが出てきて欲しい。
東京都世田谷区が認知症条例を作り10月から施行した。東京新聞が9月16日、毎日新聞が9月29日、朝日新聞が10月2日にそれぞれ報じた。全国で9番目の条例だ。

 

 

同条例は「認知症の人が自分らしく暮らし続ける」と謳うが、「認知症の人の役割」として「発信」「社会参画」を挙げ、「主役」に据えた和歌山県御坊市の先駆例と比べ、「対策の対象」という意識が抜けきらない。
「認知症施策当事者と議論」(朝日)、「認知症 共生する街に」(東京)、「認知症 権利を尊重」(毎日)という見出しからも、認知症の人が主役になっていないことが分かる。
比較しながら論じるのはジャーナリズムの基本。踏み込み不足だろう。

 

 

浅川 澄一 氏
ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員

1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。

 

 

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