特集 2021年介護報酬改定
自由民主党の参議院議員として、さらに公益社団法人全国老人福祉施設協議会(全国老施協)の常任理事兼顧問として介護・福祉問題に詳しいそのだ修光氏に、大詰めを迎えた2021年度の介護報酬改定に向けた議論と評価の方向性、今後の新型コロナウイルス対策、さらには中長期的な介護保険制度のあり方や菅義偉内閣における社会保障政策について話を聞いた。

参議院議員 そのだ修光氏
1957年、鹿児島市に生まれ。日本大学法学部卒業。
鹿児島県議会議員2期を経て、自由民主党公認で衆議院議員総選挙、鹿児島2区において96年初当選。
2016年に参議院選挙で全国比例当選。
参議院厚生労働委員長など歴任、20年10月に自民党組織運動本部副本部長、厚生労働副会長就任。公益社団法人全国老人福祉施設協議会常任理事など。
――21年度介護報酬改定に対して自由民主党はどのようなスタンスで臨むのでしょうか。
そのだ(以下敬称略) 今回の改定では新型コロナウイルス対策が新たな論点に挙がっています。もちろんこれも重要な要素ですが、私自身は、新型コロナウイルス対策に関する部分と介護報酬制度本体をきちんと分けて考え、その上で本体部分をプラス改定にすることが不可欠だと考えています。団塊世代が後期高齢者となる2025年を目前に控えて介護需要は高まっていますが、それを支える介護人材不足や事業者の持続可能性といった問題は未だに解決していません。現場の支え手の意志や思いとは別に、財政面で介護を回すことができなくなるかもしれません。こうした「介護崩壊」を防ぐためにも18年度改定の趣旨をもう一度確認し、現場本位の議論が必要だと思います。
――前回の改定でも、決着まではギリギリの議論が続きました。
そのだ 財務省からは終始マイナス改定を要求されました。最終的に菅義偉内閣官房長官(当時)に私が働きかけて土壇場でプラス0.54%という数字を勝ち取りました。17年11月に全国老人保健施設協会や全国老人福祉施設協議会などが中心となって介護の基本報酬アップ改定の署名を集め、政府与党に提出。12月の改定内容の確定の直前には私を含む多くの国会議員が財務省に介護報酬アップの最後の申し入れを行いました。当初は少し低めの数字が出ていましたが「それでは介護現場は持たない」ということで、決着前の休日に菅官房長官にお願いに伺いました。結果的に医療と遜色のない形で収まりました。
21年度改定も前回と同様、最後の最後まで攻防があると予想しています。
――「新型コロナ対策関連費を含めてのプラス」では駄目だと。
そのだ それでは、実質マイナス改定と変わらないと思います。先に指摘したとおり、新型コロナ禍以前から介護現場の問題は深刻化しています。ここでマイナス改定ならば、介護に関する解決や改善はさらに「絵に描いた餅」で、遠のいてしまいかねない。
12年、15年とマイナス改定が続いたことで、介護事業全体の収支差率は3.3 % まで悪化しました。そこに危機感を持って前回改定が行われ、ようやく歯止めをかけられるか否か、という踊り場にあるのが今の介護現場です。ただし、本体をプラスにする代わりに、介護施設における新型コロナ対策事業がおろそかになってもいけない。
――介護現場における新型コロナ対策の功績は医療などに比べて過小評価されている印象があります。
そのだ 施設を経営している立場から、日本における新型コロナ感染者の死亡者数が欧米と比べて格段に少ないのは、高齢者施設における手厚い医療・介護ケアの延長で、新型コロナウイルス感染症を防いできた現場の努力がとても大きいと思います。そして、介護現場の努力が、重篤化しやすい高齢者の感染を防ぎ、医療崩壊を防ぐことにも繋がっています。
――全国老施協の常任理事としても今春以降のクラスター対策などで、厚生労働省に現場の実情を伝え、逐一助言されたと聞きました。
そのだ 私自身、介護事業者として強い危機感を持ちました。自分の施設は鹿児島県にあり、通常はひんぱんに東京と往復できたのですが、それが不可能になり、オンライン会議システムで現地に指示を出しつつ状況報告を受けていました。一方で全国老施協には、全国の会員から新型コロナに関して様々な質問や相談が相次いで寄せられていました。そこで「新型コロナ対策特別チーム」を立ち上げ、厚労省の事務連絡を分かりやすく解釈したり統一的なルールを示したりしました。各施設の資材不足などにも、全国のネットワークを使って相互に援助する体制を整えました。
――最も苦慮されたのはどんな部分ですか。
そのだ 国会議員として感じたのは行政間の連携ですね。国が矢継ぎ早に施策を打ち出しても、介護保険の現場は、保険者である市区町村、あるいは施設の監督者である都道府県が関与します。そのため、新型コロナウイルス対策も地域や自治体によって差があり、当初は地方自治体の対応が硬直的になりがちだったと感じます。ただし前例がない事態でやむを得ない部分もあります。例えば、クラスター感染が発生した施設などにおける、職員や入居者を対象とした「行政検査」の範囲は、当初それぞれの自治体でまちまちでした。特別養護老人ホームだけでなく高齢者や障害者を問わず介護現場全体に混乱を招いていました。東京にいた私は厚労省の職員に介護現場の実情や要望を説明しました。個別の対応も急務ですが、国として厚労省が事務連絡などを通じて全体の方向性を定めていくべきだと提起しました。
21年度改定、本体でプラスを
――介護のみならず社会的に大きな混乱の中、菅内閣が発足しました。社会保障政策、特に介護に関してどのような路線になるでしょうか。
そのだ 菅総理自身、介護現場に深い理解があります。田村憲久厚生労働大臣も、介護分野に精通している。加藤勝信官房長官は前厚労相で、21年度改定の議論も十分に把握されています。介護現場、利用者やその家族、現場の職員も介護事業者も、大変苦しい状況が続いています。介護は皆の公共財です。働きたい人が、仕事とケアの両立ができる環境をつくり、『介護離職ゼロ』の社会を実現するためにも努力しなくてはいけない。介護保険制度は20年を迎えましたが、公共財という理念の一方で次の24年度改定では抜本的な改革も視野に入れるべきだと個人的に考えていま
す。

菅総理と。そのだ氏Facebookより