予防効果を立証 年間約3割減
4月に綜合警備保障(ALSOK/東京都港区)にグループ入りしたらいふホールディングス(同品川区)。1都3県で介護付有料老人ホームなど48施設を運営するらいふでは現在、入居者の転倒リスク低減に向けた産学共同研究による「フットケア施術」や、業務効率を向上させるための生産性指標の導入などに取り組んでいる。介護事業責任者である、小林司取締役に話を聞いた。

らいふ 小林司取締役
──転倒リスク低減に向けた取り組み「フットケア」について教えてください。
小林 19年11月にプロジェクトチームを発足。施設管理者やケアマネジャー、本社スタッフに加え、医療法人社団至髙会たかせクリニックの髙瀬義昌理事長、東京大学大学院薬学系研究科医薬政策学の五十嵐中客員准教授、了徳寺大学健康科学部の山下和彦教授、グローバル・ケアの櫻井敦博社長の協力の下、研究を進めてきました。フットケアを推進する理由としては、入居者の8割以上が足裏のタコや巻き爪などのトラブルを抱えていることに着目したためです。なお、フットケアは専門のスペシャリストが実施。足トラブルのケアに加え、皮膚状態の確認、保湿・マッサージなどを、まずは8施設48名を対象に開始しました。
施術前後の足圧分布比較
![]() (フットケア前) | ![]() (フットケア後) |
──具体的な内容と研究結果については。
小林 入居者一人ひとりの状態に合わせてケアを行うため、定期的に下肢筋力の測定などを行う「計測会」を実施し、その結果を基に「フットケアプラン」を作成、月1回40~50分の施術を行ってきました。プロジェクト発足から半年間、3回目の計測会における足指力・側圧分布・膝間力の計測及び足部と足爪の形態観察の4項目の結果を評価したところ、症状改善とともに、足裏と地面の接地面が大きくなり立位保持の安定につながりました。また、フットケア開始前と開始後の139日間の転倒・転落回数のデータを検証。結果を約1年間分に換算すると、転倒で29%、転落で50%発生率が低下したと言えます。
──今後、どのように全施設に展開していくのでしょうか。
小林 この実証結果を基に、7月より自費の「フットケアサービス」として展開しています。月1回、40分6500円で、まずは各施設6名の予約枠を設けましたが、全施設ですでに予約がいっぱいの状況です。現在はグローバル・ケアのフットケアワーカーが実施していますが、11月以降を目途に内製化する方針で、社内で選抜した看護師などを中心に、会社負担で資格取得を広げていきます。
――また、生産性指標「時間のモノサシ」も導入されました。
小林 業務効率化を目的とした見守りシステムの開発・導入には17年より取り組んでいますが、一方で捻出された時間をより質の高い介護に充てられなくては意味がありません。介護という仕事は一介助あたりの時間を指標化することが難しく、「時間」という概念が定着してきませんでしたが、それぞれが1回当たりの介助業務で5秒短縮でき、それを積み重ねていけば膨大な時間差となります。そこで、質を落とすことなく全員が生産性を向上する取り組み「時間のモノサシ」を19年10月より開始、既に3回実施済みです。
全職員に生産性指標導入も
――具体的には。
小林 まず、導入勉強会を実施。全社の介護プロセス別業務時間把握に向けてモデル施設で計測を行い、参考時間を提示して各施設の実施対象者及び実施日を決めました。そしてチェックシートを活用した各施設での計測を2ヵ月間実施。介助の種類別、入居者の介護度別に時間を計測し職員自ら記入、業務終了時に提出してもらいました。計測期間終了後には確認会を行い、その後も各施設で1ヵ月ごとに報告・総括を実施、以降この取り組みを四半期ごとに繰り返すというものです。入居者にとってのメリットは、職員によるケアのばらつき改善、効率化により生じた時間で個別ケアが受けられるなど。職員にとっても、生産性の高い職員のノウハウ共有、ベテラン職員の退職や新人職員入社などの状況変化への対応が円滑になりました。こうした生産性向上の効果としてプラスαのケアを提供し、サービスの質及び入居者満足度の向上に努めていく考えです。