地方の衰退で「買い物難民」となる高齢者が増加している。そこで、「移動スーパー」の運行により、そのような地域課題の解消に向け動き出す介護事業者も現れてきた。実際の事例を紹介しつつ、「高齢者の買い物難民」をめぐる諸課題について考えていく。

移動スーパー「SIESTA」。地域の期待は高いが、運営には難しさもあるという
千葉県香取市 介護事業者が新サービス
一般社団法人水郷介護支援パートナーは、千葉県の北東部、霞ケ浦にもほど近い香取市を拠点に、介護・福祉タクシー、民間患者搬送、訪問介護事業を手掛けている。
同法人は16日より、移動スーパー「SIESTA」の試験運用を開始した。対象とするのは、香取市新島地区に居住する高齢者をはじめとした移動困難者で、およそ30世帯。毎週決まった曜日に、150〜200種ほどの日用品を満載した移動販売車が利用者宅に赴く。
販売する生鮮食品は地産地消をテーマにしており、地元農家から採れた野菜を直接仕入れているほか、地元名産のコシヒカリを、玄米からその場で精米して1合から提供している。
販売員は同社訪問介護部門の職員が担当。移動販売に合わせて、100・500円のワンコインで、ゴミ出しや、重い物の移動などを依頼できるサービスを用意している点も特徴だ。
坂本直己代表は「当初はクラウドファンディングで資金を募りました。目標資金は未達成でしたが、地域の介護事業者や、親を介護している人などから多くの反響があり、必要性の高さを確認できました」と話す。
独居高齢者救う 継続性に課題も
SIESTAを開始した背景には、地域の公共交通機関の衰退がある。
新島地区の最寄り駅となるJR鹿島線の十二橋駅は、電車の本数が少なく、1時間に1本程度。地域のバスも同様の状態で、利用者も減少し赤字路線となっており、自治体が資金を注入して維持している状態だという。その一方で、香取市の高齢化率は30%を超えており(2015年時点)、買い物難民となる高齢者はさらに増加すると予想される。
坂本代表は、象徴的な例として、同地域に住む70代独居女性の例を挙げる。「買い物にタクシーを利用しており、500円ほどの日用品を買うために往復3000円の交通費をかけていると聞きました」。そこから、「買い物難民」という地域の課題を強く意識したという。
坂本代表は「SIESTAの運営はほぼボランティアで、収益面は期待できません」と運営の難しさも口にする。「地域の小売業者と連携できれば、また状況は変わると思います」。

車体は安価に譲り受けたものを自ら整備して使用している
通販トラブル増、新型コロナで
「高齢者の買い物難民」について、東京都福祉保健局が20日に開催した「第1回高齢者の特性を踏まえたサービス提供のあり方検討会」では、公共交通機関の衰退を原因にするケースに加え、「情報の格差」による買い物難民が生じている、と委員から声が挙がった。
イオンお客様サービス部長村木幸江委員は、「新型コロナによる外出自粛で、ネットスーパーの需要が高まっている」としたうえで、「高齢者から、『ネットスーパーの使い方がわからない』という相談が多く寄せられる」と現状を述べる。
また、慶應義塾大学教授駒村康平座長は「インターネット通販で、同じ商品や必要のない商品を何個も買ってしまうなど、トラブルに巻き込まれる高齢者が増えている」と指摘する。実際に、国民生活センターに寄せられる高齢者からの相談件数の統計では、インターネットで行った商取引に関する相談がこの数年増加している(図表参照)。「現状のインターフェイスの多くは、認知機能が低下した高齢者の利用を想定していない」と問題視した。
コロナ禍による地元スーパーの撤退などで、こうした「高齢者の買い物難民」のさらなる増加が懸念される。地域包括ケア実現に向け、高齢者の買い物難民の実情を知るヘルパーやケアマネなど介護事業者と、小売業者の連携が求められる。