競合出現と在宅強化で経営悪化
10月9日の介護給付費分科会では、2018年介護報酬改定の影響調査の「速報版」が報告された。この中で、18年度介護報酬改定で創設された介護医療院と、報酬体系が大幅見直しされた介護老人保健施設(老健)の現状が報告されている。
まず療養病床からの介護医療院への転換について見ていこう。17年に介護療養6.3万床、医療療養の中で看護配置25対1病床の8万床、あわせて14.3万床が廃止の対象となり、順次介護医療院への移行が迫られている。その移行措置期限も23年度末に切れる。医療療養の看護配置25対1が廃止となったのは、この病床が現在の医療法上の看護配置基準4対1を満たしていないからだ。
さて介護医療院への移行の現状はどうだろう?20年6月末で介護医療院は515施設3万2634床にまで増加しているが14・3万床には遠い道のりだ。
10月9日に公表された速報版では、療養病床などから介護医療院への移行予定に関する意向を聞いている。しかし、回答した介護療養病床の23.7%が、介護医療院への移行措置が切れる23年度末においても、なお引き続き介護療養病床に留まるとしている。その理由は不明だ。さらなる経過措置の延長を期待しているのだろうか? しかしそれはあり得ないだろう。
また18年度改定では、老健の在宅強化施策がさらに進んだ。18年度改定で、老健の在宅復帰・在宅療養支援等の機能の指標化が図られて、「超強化型」、「在宅強化型」、「加算型」、「基本型」、左記の要件を満たさない「その他型」の5類型となった。速報でその影響をみると、17年に「在宅強化型」だった場合、18年は「超強化型」が80.2%、19年は89.6%、17年に「従来型」の場合、18年は、「加算型」が21.2%、19年は32.7%というように、上位区分への移行が順調に進んでいる。
また在宅復帰率は、17年は平均31.2%、18年は34.3%、19年は36.1%と上昇している。
このように報酬改定による誘導は順調だ。しかし在宅復帰率を高めれば、稼働率の低下が起こり経営は厳しくなる。一般社団法人日本慢性期医療協会が18年7月に全国150の老健を対象とした調査によると、15年時点よりベッド稼働率が落ち込んだ老健は全体の39.8%に上り、厳しい経営状態にある施設が多いことが明らかになった。
特に18年の診療報酬改定では病院の在宅復帰率の算定式から老健がはずされ、その代わりに介護医療院が入った。このように介護医療院が老健の強力なライバルとして浮上した。このため老健では病院からの患者が減り、そして老健の在宅復帰強化により利用率が低下している。こうした老健の経営悪化の側面についても議論が必要だ。
武藤正樹氏(むとう まさき) 社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役
1974年新潟大学医学部卒業、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中86年~88年までニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学。94年、国立医療・病院管理研究所医療政策部長。95年国立長野病院副院長。2006年に国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉大学大学院教授、国際医療福祉総合研究所長。政府委員等 医療計画見直し等検討会座長(厚労省)、「どこでもMY病院」レセプト活用分科会座長(内閣府)、中医協調査専門組織・入院医療等の調査・評価分科会座長