<連載第34回>あすの介護に 佐和子の ハートふるヒント

 

利用者の食事環境

介護老人保健施設に勤務し半年を迎えました。

 

 

勤務をスタートした時からとても気になる男性利用者さんがいました。現役の頃は趣味でトランペットを演奏し日本酒がお好みで、寡黙な方でした。

 

 

現在は疾患による麻痺から思うように体が動かず、みそ汁のお椀や湯呑は持てるものの、ご飯茶碗を持つ握力がありません。途中で疲れるのか動きが止まったままになるので、声掛けは必要でしたが、半年前まではスプーンを使い自分で食べていた方です。麻痺があることで思うように動けず食事や何においても意欲低下し、日中は椅子に座りウトウトしていることがほとんどでした。時たま眉間にしわを寄せながら腰を痛そうに動かして、座る体勢を変えたりする程度の動きしかありませんでした。

 

 

日々に喜びを感じて欲しい、この方の楽しみは何だろう…と思い、「酒のつまみと言えば何ですか?」と聞くと、いままで表情に変化が見られなかった方が急に「塩辛いいね」「佃煮もいいね」と。「塩辛がお好きなら、鯵のなめろうなんかもお好きですか?」とお聞きすると「ん、俺はあんまりかな…」なんて話をした時は、普段の朴訥とした表情とは打って変わり饒舌で喜々としていました。まるで、つまみを口で味わっているような表情を見ていると、食べる事もお好きな方だったと想像できました。

 

 

そんなある時、噛み切れず口に残る物を足元に吐き出していました。私達には理解できない、食べ物が飲み込めず口の中に残る感覚。利用者さんの中には、お肉好きで食べたいけど噛み切れないので口に含みエキスを吸い取り、お肉など飲み込めないものを口から出し残す方がいます。私はそれで良いと思うのですが。

 

 

この男性利用者さんはこの一件から食形態がミキサー食へ変わりました。ぺっと吐き出す事はなくなったかもしれませんが、日増しに食べる事への意欲もなくなりました。今ではエプロンから一切手が出ることなく全介助で食事が行われます。思うように動けないかも知れませんが、目は見え、香りを感じ、声をかければうなづきもし、そのぶん洞察力は鋭くしっかり見ています。だからこそ、五感が満足できる食事形態や環境はとても大切なんだと思います。

 

 

女優・介護士 北原佐和子氏

1964年3月19日埼玉生まれ。
1982年歌手としてデビュー。その後、映画・ドラマ・舞台を中心に活動。その傍ら、介護に興味を持ち、2005年にヘルパー2級資格を取得、福祉現場を12年余り経
験。14年に介護福祉士、16年にはケアマネジャー取得。「いのちと心の朗読会」を小中学校や病院などで開催している。著書に「女優が実践した魔法の声掛け」

 

 

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