<連載第35回>あすの介護に 佐和子の ハートふるヒント

 

観察力と気づきの大切さ

医療法人社団悠翔会理事長の佐々木淳先生の講演で「握力が落ちると口の筋肉も落ちる」と話されていたことがとても印象に残っている。

 

 

Aさんは半年前に入所された。話しかけるとニコッとして発語もしっかりしていて、食事も時間は掛かりながらも全て自分で食べていた。まだ残暑の残る9月頃、水分摂取を意識して行っていたこの時期にAさんが感染症で発熱し1日点滴対応になった。翌日に熱は下がったが、無理に食堂には降りずに病室で食事を摂っていただくことになった。

 

 

食欲もありみるみる内に回復したAさんだったが、何故かこの頃から、食欲は有るものの、体力が落ちたのか食事中に傾眠傾向になり動きが止まることで介助が必要になった。最近では意識が朦朧とし目を閉じていることがほとんどで常に傾眠状態である。

 

 

食事は全介助になり、Aさんの両手はエプロンの下で全く動かすことがなくなったが、おかずを乗せたスプーンを近づけるとAさんは反射的に口を開き飲み込む。時にむせこむものの、嚥下状態はまだ問題ないが経過観察が必要な状態でもある。そんな折に佐々木先生の言葉を思い出した。

 

 

Aさんの手を見ると両手ともパンパンにむくみ握力も落ちているので、前は難なく持っていたプラスチックのマグカップが現在も持てるのかは分からなかった。関節可動域の比較的広い左手をエプロンから出してカップに触れてもらうと、力は入らないながらもうっすらと目を開けてカップの取っ手を握ろうとする。支え切れないと自分で判断したのか、自然にエプロンから右手を出してカップの底を支えていた。だが全く力が入らず、最初の2口はコップの底を私が支えて口元に近づける必要があった。

 

 

ところが3口目からは目を見開きコップを確認し、口をすぼめ自ら飲むための動作を取るようになった。自分の手でコップを持っていると分かっているからこそ、飲みたければ手を口に近づけようとする。でも思うようにいかないと、口先を尖らせてコップに近づけようとする。あんなにも口先を尖らせることが出来るなんて、情けないことにこの時発見した。必要以上のケアはその方のADLを低下させてしまう。でも気が付いた時の対応が、その方の感覚、力を呼び戻すことにもつながるとも思う。

 

 

女優・介護士 北原佐和子氏

1964年3月19日埼玉生まれ。
1982年歌手としてデビュー。その後、映画・ドラマ・舞台を中心に活動。その傍ら、介護に興味を持ち、2005年にヘルパー2級資格を取得、福祉現場を12年余り経
験。14年に介護福祉士、16年にはケアマネジャー取得。「いのちと心の朗読会」を小中学校や病院などで開催している。著書に「女優が実践した魔法の声掛け」

 

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