---連載① コロナドミノで社会的コスト増大---

第1部 課題と分析 

Ⅰ  2つの対比

一般社団法人未来医療研究機構 長谷川敏彦代表理事

 

 

新型コロナウイルス蔓延から9ヵ月が経過した。ウイルスの解明、感染症対策、治療薬・ワクチンの開発など世界中の様々な分野で研究が進められている。未来医療研究機構代表理事の長谷川敏彦氏は、国が推奨する〝ソーシャルディスタンス〞、〝三密の回避〞に異論を呈する。現在のコロナ問題を、「課題と分析」、「提案と展望」に整理して分析。集中連載でコロナ問題の現状と展望を読み解いてもらった。

 

〈はじめに〉

2020年1月から続くコロナ騒動は、市井の一国民として見ても、国の医療政策や地域の健康づくりに関わってきた過去の経験から考えても、大変奇妙な光景であった。特に突然「ソーシャルディスタンス拡大」という異様な政策が打ち出され、日本がこれまでここ数十年間推し進めてきた社会政策を自ら否定したことに大変驚いた。そこでこの10ヵ月、医療政策学から独自にこの騒動の研究を始めてみた。

 

 

政策は社会での実施を前提とするのでどんな小さな課題のものでも多面性を持つ。特に今回は未知のウイルスの世界的流行ということもあり、「遺伝学・免疫学」の分子レベルの課題から、「医学・公衆衛生学」の実践レベル、「地政学・国際政治学」の世界レベルまで極めて多岐にわたる分析が必要となる。

 

 

コロナについては様々な分野の専門家によって、様々な貴重な発言がなされてはいる。しかし政策においては領域間の意見が相矛盾するのが常識である。従ってなるべく俯瞰的・横断的視点が必要で、ましてや今回のような新しいウイルス感染が対象であれば必須となる。

 

 

テレビ、新聞、雑誌の報道を見て思うのは、コロナのような短期的で小さな課題に、これほどまでに右往左往していては、これからやってくる超ド級の大きな課題「人類が経験したことのない未知の高齢社会の構築」に、日本は果たして対応できるのだろうかと、大変不安になった。というのも健康に大した影響を与えもしないコロナに対して、「高齢社会の建設に必須の、人と人のつながり」を断ち切る政策を無神経に強引に進めているからである。

 

 

コロナ政策は現在進行形で、現時点での評価はまだ早いのかもしれない。しかし日々高齢者のケアに取り組む皆様方の活動の一助になればと考え、出来る限り俯瞰的な観点からの分析をお伝えしたい。

 

 

 

まずコロナ政策の過程での「課題」を明らかにし、これらを踏まえて最後に高齢社会への対応を含めた「提案」をまとめたい。

 

 

 

食欲が落ち、運動不足
悪循環で要介護悪化

Ⅰ 2つの対比

この10ヵ月間、2つの対照的な事態が進行し、日本のリーダーの資質と現場の努力と能力の対比が浮き彫りとなった。この対比は70年前の第2次世界大戦中の戦争指導者と戦場での兵士との関係を思い起こさせて、半世紀以上の民主政治を経ても変わっていない関係に大変衝撃を受けた。

 

 

対比1 コロナドミノを巻きおこしたソーシャルディスタンスの拡大

世界一の高齢者大国である日本は、2007年に65歳以上人口割合が21%を超え世界最初で唯一の超高齢社会に突入し、WHOが定義さえしていない〝人類未踏の高齢社会〞に向かって独り歩んでいる。

 

 

この人類史的社会実験には、人々が地域の中でつながり、お互いに支え合うこと、即ち地域包括ケア体制の構築が必要で、そのために「社会距離の短縮」が必須となる。ところが日本の文化と未来に配慮せず外国からの借り物の発想「ソーシャルディスタンスの拡大」そして、「密の回避」が強引に進められたことで、これまで何十年かけて積み上げてきた努力が水泡に帰しつつある。

 

 

東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授は「社会とのつながり」を失うことをきっかけに、家に引き籠こもって気がめいり、食欲が落ちて栄養状態が悪化、運動不足で筋肉が減りあげくの果ては身体を壊す一連の悪循環「高齢者の虚弱化ドミノ」を警告している。実際に警告どおり人と人の距離を遠ざけるコロナ政策はドミノを引き起こし加速させた。人とまちづくり研究所の堀田聰子代表理事による緊急調査(5月12〜22日)で早々とその実態が明らかとなっている。

 

 

「喋るな」「近づくな」「触れるな」「人を信じるな」「マスクで顔隠せ」「社会的距離を取れ」というゆがめられた価値観の下ではいかなる高齢社会もあり得ない。これから年末にかけて更に高齢者の要介護状態が悪化すると危惧される。

 

 

 

対比2 介護施設の評価・・・施設の現場での努力が日本の死亡率抑制に大きく貢献

あまり語られない日本やアジアでの低死亡率の重要な理由に介護施設での死亡の差がある。死亡率の高い欧米の国々では、介護施設で多くのクラスターが発生してコロナ死亡の4 〜8割、ほぼ半分までが介護施設で発生している。

 

 

カナダやスペインでは軍隊が出動して介護施設を調査したところ、何日も食事をとれず、排泄物にまみれ入所者が集団で亡くなっていたなど、痛ましい現実も伝わってきている。

また、イギリスでは、大量の感染者と死亡者が発生するというインペリアルカレッジロンドンのファーガソン教授の論文の予測をもとに、若年者用の空きベッドを確保するため、入院していた治療中の高齢者を介護施設に戻したことで、施設でのクラスターが爆発的に増えたことも報告されている。

スウェーデンの死亡率が高い背景には、80 歳以上はICUに入れないという、死生観に基づく基本的な政策もある。世界で介護保険がある国はドイツ、オランダ、日本、韓国に限られている。他の国々では保険制度による管理はない。

 

 

また中小の私的施設では、介護職員の多くが外国人で、賃金が感染の危険に見合わないと、早々に自国に帰ってしまい、十分に感染制御できなかった可能性がある。帰国後、アフリカで感染を広げたことは残念なことだ。
日本では介護施設での死亡は14%を占めるに過ぎず、介護施設と職員の努力で、深刻なクラスターの多発を予防できたことが、死亡率の抑制に大きく貢献したと考えられる。

 

日本がこれまでお手本としてきた北欧の国々、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの死者の半分前後が介護施設という事実は衝撃的である。逆にこれから急速に高齢化を迎える香港、韓国、シンガポールなどのアジアの国々は健闘している。共に老いる国々と共に学びあう事を構想すべきと考える。

 

 

すでに周知のごとく死亡の殆どは70歳以上の高齢者で、実はコロナは高齢者問題なのである。

 

 

しかし長期の緊張持続は不可能で今後の工夫が必要である。社会全体への提案も含め今後の政策について提案したい。

 

 

 

一般社団法人未来医療研究機構 長谷川敏彦代表理事

(プロフィール)
アメリカでの外科の専門医レジデント研修など15年の外科医生活、ハーバード大学公衆衛生大学院での学習研究を経て1986年に旧厚生省に入省し、「がん政策」「寝たきり老人ゼロ作戦」を立案。その後、国立医療・病院管理研究所で医療政策研究部長、国立保健医療科学院で政策科学部長。日本医科大学で医療管理学主任教授を経て、2014年に未来医療研究機構を設立。現在、地域包括ケアや21世紀のための新たな医学、公衆衛生学、社会福祉学そして進化生態医学創設に向け研究中。

 

 

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