病院・保健所機能は限界に

全国的に新型コロナウイルスの感染拡大が急速に広がっている。感染者の絶対数だけをみていると大都市部での感染拡大が顕著に見えるが、人口比で考えると拡大地域と考えるべき地方都市も増加している。

10月までは東京の在宅医療の現場では、発熱者の99%はコロナ以外の疾患であった。しかし1月以降、コロナが否定できないケースが10%を超えてきている。

 

 

 

●後方支援病院の破綻

 

2021年1月13日20時現在、東京都のコロナ病床稼働率は実に301%。1万9207人の新型コロナ感染状態の患者に対し、感染病床は6360床しかない。感染者を早期に入院隔離できないばかりか、重症化したとしても入院の受け入れが厳しい状況となっている。新型コロナによる死亡者も急激に増加し、都内だけで700人に迫り、在宅死もひそやかに増加している。

 

コロナ病床と、その稼働のために必要な医療専門職の確保のため、通常疾患の入院治療も困難となりつつあり、骨折や誤嚥性肺炎など、通常の救急搬送を断られる事態も一部で発生しつつある。事実上の医療崩壊であるといっていいと思う。

 

 

 

●保健所機能の破綻

 

私たち医療法人社団悠翔会は都心および近郊で130の高齢者施設に在宅医療を提供し、約2000の地域事業所と連携しているが、昨年末より連日のように連携事業所で職員や入居者・利用者に陽性者が出ている。

 

しかし、保健所に報告してもすぐに入院できない、あるいは入院の手配が難しいことが増えてきている。接触追跡も行われず、誰を濃厚接触者として扱うべきか、1週間たっても連絡がないこともある。保健所に報告し、指示を待つだけでは迅速な対応ができない。その間の感染拡大の危険もある。

 

在宅医療や高齢者施設は覚悟を決めなければならない時に来ている。これまでのように、感染した患者・入居者を入院させ、保健所の指示に従い濃厚接触者を隔離・出勤停止して終わり、という状況は作れない可能性があることを認識し、しかるべき備えをしておく必要がある。

 

 

当法人では事業者と連携しながら感染の終息に向けて、以下のように対応している。

 

①迅速に抗原検査・PCR検査が実施できる体制をあらかじめ確保しておく。

 

②発熱者や新型コロナが疑われるケースが出現した場合、直ちに抗原検査を実施する。陰性であった場合にはPCR検査を追加する。ただし、抗原検査・PCR検査ともに検出感度は最大で7割程度。血液検査なども追加し、明らかに他の原因であると判断できる場合を除き、感染者に準じて対応する。

 

③陽性(または疑いが濃厚)であった場合には隔離(職員の場合には出勤停止・自宅隔離)するとともに、3日前からの接触追跡を行い、濃厚接触者を抽出する。

 

④在宅高齢者・入居者の感染については、高リスクであることから入院での管理が望ましいが、入院ができない・入院治療を望まない場合には在宅・施設ケアを継続すべく、事業所と調整を行う。施設においてはゾーニング・コホーティングの支援を行う。

 

⑤濃厚接触者に対するPCR検査を実施する。検査の実施に当たっては保健所の指示に従うが、高齢者施設の場合には可能な限り24時間以内に入居者・職員の全員のPCR検査の実施を目指す。

 

⑥濃厚接触者以外に陽性者がいた場合、1週間後に関係するフロア単位で全員に再PCR検査を実施する。陽性者がゼロであれば終息として取り扱う。

 

⑦濃厚接触者以外に陽性者がいなかった場合、1週間慎重に経過観察する。もしこの間に有症状者がいなかった場合、終息として取り扱う。有症状者がいた場合、検査を実施する。

 

 

 

「感染者はうちではみられない」という事業所都合が優先できない地域が増えてきている。もし実効的・実践可能な感染対応マニュアルの策定、個人防護具の確保、安全な着脱技術の習得がまだできていないのであれば、連携医療機関とともに今すぐに取り掛かる必要がある。感染が発生したらどうするか、ではなく、感染者をケアする、という前提でのシミュレーションを重ねていく必要がある。

 

 

 

佐々木淳 氏
医療法人社団悠翔会(東京都港区) 理事長、診療部長
1998年、筑波大学医学専門学群卒業。
三井記念病院に内科医として勤務。退職後の2006年8月、MRCビルクリニックを開設した。2008年に「悠翔会」に名称を変更し、現在に至る。

 

 

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