---連載④ 立場とリスクによって異なる死亡率の印象---

政策は思いつきで立案してはならない、空気で推進してはならない。根拠に基づく医療政策(evidence based health policy)が常識となっている。政策に必要な2つの重要な根拠について、専門家の分析、提言が混乱しており、結果、国民の間に誤解が広がり、恐怖と不安の源泉になっているように思われる。そこで政策に欠かせない重要な2つの根拠「死亡率」「感染経路」を取り上げたい。

 

 

根拠1 死亡率―新たな情報で改まる当初の誤解

新型コロナウイルス感染症は当初とりたてて恐ろしい病気ではないと明らかにしていた専門家もいた。今でも普通の風邪と変わらないと主張する医師も多い。
しかし、一部の専門家は非常に恐ろしい病気だと考えておりその恐怖が一般人に伝播、固定化されている。

 

 

 

若年者は普通の風邪以下 高齢者・持病者は重症化

なぜ専門家によって見解が異なるのか?その恐怖のからくりは、国立国際医療研究センターの忽那賢志医長(国際感染症対策室、感染症専門医)が作成した感染の発症から死亡までの流れ図を用い、データ分析すると明らかになる。

 

 

 

まず病院の臨床家は入院を必要とする患者即ち中等症以上を全体像として見ており、4分の1が重症化し半分が死亡するので13%もの患者が死亡する大変恐ろしい病気の印象をうけうる。

 

一方、疫学者は、発症者数を全体像としてとらえ、20%が入院を必要とし、4分の1が重症化し半分が死亡するので2.4%が死亡するという計算になるので、やはり普通の風邪より数十倍も死亡率が高い印象となる。WHOが3月3日に発表した症例死亡率「3.4%」とほぼ一致することとなる。

 

 

しかし、無症状者を含めた感染者を分母にする「罹患死亡率」を計算すると、死亡率は大きく下がる。当初言われた無症状者約80%の値は、最近では各国の抗体検査から90%や95%とされており、それらを合わせて分母とした死亡率は0.08〜0.48%程度である。

 

 

Bulletin WHOの9月の論文によると、世界74ヵ所の疫学調査をレビューし、中間値は0.21%と報告されている。日本国民でコロナに罹った人の死亡率は無症状の人を含めると季節性インフルエンザの死亡率0.1%と同じか少し高い程度となる。異なる立場の専門家の印象がマスメディアで増幅され拡散されたため混乱を生じたのである。

日本、中国、イタリアについて調べた年齢別症例(治療を受けた感染者)死亡率を見ると、3国とも40歳以下では死亡率がほとんどゼロであるのに対し、50代で増え始め、年代を追うごとに増える。

 

 

70代の死亡率は日本6.7% 、中国8% 、イタリア12.8%。80代以上は日本14.5%で、中国は14.8%、イタリア20.2%と報告されている。比較的イタリアが高いが、日本と中国は大差ない。日本では20代の糖尿病の力士や40代の俳優などの死が伝えられたがどのような疾患にも極まれな例外はある。

また、中国の患者4万4672人のデータ分析によると、持病のない人の死亡率が0.9%なのに対し、心血管疾患の人は10.5%と約12倍になっている。次いで糖尿病7.3%、慢性呼吸不全6.3%、高血圧6%、がん5.6%。肥満に関連する疾患が上位に並ぶ。ほかに抗がん剤治療中など免疫低下状態にある人もハイリスクである。重症者の一部は急激に悪化する例があり、肺の病変だけでなく、血管内皮細胞のフォン・ヴィレブランド因子による血管内微小血栓形成が主因とされる。

 

 

 

根拠2 感染経路―大半は最後の水際、手指感染

 

世界からエビデンスが集まった今、感染経路は主に飛沫と接触であることがわかっている。飛沫も手指によって口や鼻や目に持ち込まれ感染するので大半が接触感染で、顔が最後の最重要の水際である。

 

飛沫は飛沫核(ウイルス本体)とそれを覆う水分でできている。患者の口から出た飛沫は空気中を漂い、大きいものから下に落ちる。小さいものはしばらく空気中を漂い、しだいに水分が蒸発して飛沫核だけになる。この飛沫核による感染を空気感染と呼ぶが、新型コロナウイルスは飛沫核になると死ぬので、空気感染はしない。

 

しかし飛沫の小さいものは数時間空気中を漂う。ミストとかエアロゾルとか言われる状態である。これが口鼻に入ったり、肺に吸い込まれたりするとわずかな可能性ではあるが感染するので厄介である。できる限り部屋を換気する必要がある理由だ。

 

 

国民のあいだには人が居るだけで、空気中にウイルスが蔓延して、それを吸い込むと感染すると誤解している人がまだまだ少なからずいて、それを防ぐためにマスクをすると考えている人も多い。ウイルスはマスクを通過するのでつけている人への予防効果はすくない。汚染された手で顔を触るのを防ぐ効果はあるかもしれない。マスクは飛沫を他人にばらまくのを防ぐためではある。

 

しかし感染が疑われればまず外出すべきでない。欧米のように感染の頻度が高ければ無症状感染者もウイルスを出す可能性があるので全員にマスクをさせることには確率的に合理性はある。しかし日本のように頻度が低いと無症状の感染者とさえ出くわす確率は低い。ましてや戸外の歩行時には何の効果もない。その反面、手洗いが不十分のうえ、不特定多数が触れるものを無防備に掴む光景が見受けられる。暮らしの中の予防では優先順位をつけねばならず、正しい知識の普及が必要である。

 

 

 

一般社団法人未来医療研究機構 長谷川敏彦代表理事

(プロフィール)
アメリカでの外科の専門医レジデント研修など15年の外科医生活、ハーバード大学公衆衛生大学院での学習研究を経て1986年に旧厚生省に入省し、「がん政策」「寝たきり老人ゼロ作戦」を立案。その後、国立医療・病院管理研究所で医療政策研究部長、国立保健医療科学院で政策科学部長。日本医科大学で医療管理学主任教授を経て、2014年に未来医療研究機構を設立。現在、地域包括ケアや21世紀のための新たな医学、公衆衛生学、社会福祉学そして進化生態医学創設に向け研究中。

 

 

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