「要介護も利用可」改正省令に批判

 

2015年の介護保険法改正で創設された、要支援者を対象とする「介護予防・日常生活支援総合事業(以下・総合事業)」。介護保険料と税金を財源とする事業だが、要支援者を給付対象から除外するものであり、担い手不足や地域差などの課題も多い。さらに昨年10月、「要介護認定後も継続してサービスを受けられる」とする改正省令が厚生労働省より通知された。事業者や業界団体から寄せられる批判の声は大きい。

 

改正省令を受け、世田谷区で行われた緊急フォーラムの様子

 

 

厚労省による改正省令は、21年4月1日施行予定。本件に寄せられたパブリックコメントには「要介護者に対する介護給付を総合事業に移行するための布石ではないか」「現状でも総合事業は十分なサービスが提供できていない中で、対象を拡大することは適切でない」といった批判の声が多い。公益社団法人認知症の人と家族の会は厚労大臣宛に、「要介護者の介護保険外しに道を拓く改正省令は撤回すべき」と緊急声明を出している。

 

 

また、18年度・21年度介護報酬改定では見送りとなった「軽度者へのサービスの地域支援事業移行」についても、11月の財政制度等審議会財政制度分科会で言及されており、その方向性は変わっていないと見られる。

 

市民福祉情報オフィス・ハスカップの小竹雅子氏は「現実的に、地域支援事業の総合事業サービスの委託事業者は単価が低いため、とても少ない。担い手がいなければ、地域支援事業は受けられない。介護保険料を払っていても、事業が利用できない」と訴える。社会保障審議会介護保険部会でも、未だ要支援1・2の人への多様なサービスが整備されていないため、移行は時期尚早という声が多く挙がっていた。

 

 

 

長期見据え「まちづくり」、自治体と事業者の協力カギ

 

一般社団法人医療介護福祉政策研究フォーラムの中村秀一理事長は「総合事業がうまくいっている事例として、例えば宝塚市などが挙げられるが、成功と言えるまでに少なくとも10~20年はかかっている」と語る。

 

介護保険事業は3年周期だが、住民主体の活動やボランティアなどを促す地域づくりである総合事業は、そう成果を上げられるものではない。しかし、今後の少子高齢化の流れや高齢者の健康寿命延伸などの観点から、「担い手としての65歳以上の活躍・社会参画の場づくりを考えれば、総合事業には発展の余地がある」という。

 

 

市町村と事業者とが協力して進めていかなくてはならない総合事業だが、市町村の裁量によるところがあまりに大きく、その地域差は課題だ。例えば東京都世田谷区では、訪問型・通所型サービスの実績件数が19年3月~20年3月でそれぞれ約2500件あり、サービスAからCに加えて区独自基準のサービスまで提供されている。しかし、従前相当以外のサービス提供事業者がゼロ、という市町村も非常に多い。

 

 

20年4月に厚労省が公表した調査研究事業結果によると、19年6月末時点で「従前相当以外の多様なサービスを実施している市町村は、訪問型で1051市町村(61.1%)、通所型で1193市町村(69.4%)であり、住民主体型サービスBの実施は、訪問・通所ともに約15%にとどまっている。

 

 

 

予防と保健事業 一体的に実施も

 

また、20年4月には健康保険法等の一部改正に伴い、各市町村では介護予防と高齢者の保健事業の一体的な実施が可能になっている。効率化も期待されるが、これについて淑徳大学コミュニティ政策学部学部長の鏡諭教授は「2005年の三位一体改革で廃止した老人保健事業を、なぜまたこのような形で実施するのか。地域包括支援センターなどでほかの業務を兼務する保健師が対応できることではない」と言及する。

 

事業単価をいくらにするか、といった市町村の判断も大変重要な課題である。昨年10月の省令改正では、併せて「市町村判断による上限価格の弾力化」も実施するとされているが、従来の措置制度における超過負担のように、補助金などの支弁も考慮していく必要がありそうだ。

 

 

 

 

基本報酬引上げ対応を

淑徳大学 コミュニティ 政策学部学部長 鏡諭教授

 

地域支援事業、総合事業のこれまでの経緯を見ると、政策的には成功しているとは言い難いと思います。
まず、2005年に地方分権推進を目的とした三位一体改革が行われ、従来の措置制度における在宅福祉事業費を含む4兆円の補助金の縮減、そして老人保健事業が廃止されました。

 

この流れから06年、包括的支援事業、介護予防事業、任意事業を一括して地域支援事業が創設されています。そもそも介護保険は、自力で排泄や料理、洗濯ができないといった介護事故に対して、要介護認定による要介護度に応じたサービスを利用できる仕組みであるはず。なぜ要介護になる前の人に対して介護保険財源が投入されるのかといった疑問がありました。

 

保険財源を投入し、介護保険の受け皿としようとするところにそもそもの問題があり、本来ならば保険外事業としてスタートすべきだったと言えます。
総合事業における最大の課題である担い手不足の解消には、介護報酬を上げるしかありません。

 

21年度改定は0.70%のプラス改定となりますが、基本報酬をしっかりと元の水準まで引き上げるといった大胆な提言も必要だと思います。現場で従事する労働者がしっかりと声を挙げていくべきでしょう。

 

 

 

「受給権」侵害に声を

市民福祉情報 オフィス・ハスカップ 小竹雅子氏

 

介護保険制度は、認定を受けた人に個別給付するのが原則です。個別給付は本来、認定を受けた個人に給付費を支払いますが、介護保険では市町村が代理で給付費を受け取り、事業所に支払います。しかし、「総合事業サービス」は個人への支給ではなく、市町村に直接、事業費が支払われます。

 

また、「総合事業サービス」の正式名称は「介護予防・生活支援サービス事業」と、あくまでも事業です。要支援認定者が増えても、個別給付のように税財源を確保する義務はなく、市町村がやりくりを求められるのです。

 

委託事業所の基準も料金設定も市町村ごとに異なり、要支援認定者に事業所を選ぶ権利やケアプランの自己作成の保障はありません。2042年に日本の高齢化はピークを迎えると推計され、今後も認定を受ける人は増え続けます。にもかかわらず、在宅介護の主力である介護予防訪問介護と介護予防通所介護という個別給付を事業に移したのです。

 

コロナ禍で休業する「総合事業サービス」の事業所は多いと言われていますが、実態把握も不十分です。介護保険料を支払う約7640万人の被保険者は、「給付を受ける権利」(受給権)を侵害されたことをもっと認識すべきです。

 

 

 

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