人材確保の裾野拡がる 異業種からの求職者増も
新型コロナウイルス感染拡大の「第3波」到来で、感染者の増加ペースが加速している。そうした中、人材確保が喫緊の課題である介護業界においては、異業種からの人材流入や採用・研修のオンライン対応、長期化する感染対策・対応にあたる職員のケアなど、新たな取り組みが必要とされている。各介護事業者は、実際どのように人材確保を進めているのか。法人で採用や研修に携わる、人材育成担当者3名に語ってもらった。

本座談会もオンラインで開催した
病院勤務の看護職、介護施設に流入も
採用活動に変化WEBの利点は
―――コロナ禍での採用活動について、感染拡大以前との変化について教えてください。
福留 これまでは対面での説明会や面接を実施していましたが、現在はWEB中心で行っています。求職者から「リラックスして話ができる」との声があることや、人事担当者としても1対1でじっくりと面接できることから、これまでよりも高い確率で採用に繋がっていると感じます。

ケアサポート 総務人事部 人財育成課課長代理 福留孝一氏
山﨑 面接は対面とWEBとを併用し、応募者が希望する形を選択してもらいます。一方で以前は、採用の間口を広げる意図で省略していた履歴書などの書類選考を復活。その結果、面接のキャンセルや欠席がなくなり、採用効率は上がったと感じています。

社会福祉法人白岡白寿会 理事長 山﨑文博氏
鈴木 基本的に定期採用は行わず、欠員補充がメインということもあり、採用方法は特に変えていません。感染対策をしっかりと行った上で、面接なども従来通り対面で行っています。応募者が対面での面接を嫌って、応募を辞退したことはありません。しかし変化として感じたのは、看護師応募の増加です。病院での勤務に対する不安などから、福祉施設への転職を検討するケースが増えているのだと思います。

社会福祉法人友愛十字会-特別養護老人ホーム砧ホーム施設長-鈴木健太氏
山﨑 当法人でも医療法人からの人材流入が見られています。家族に高齢者がいる方などが、比較的リスクの低い入居型施設での勤務を希望しているようです。
異業種人材流入 前職スキル活用
―――飲食業などでの失業が相次ぎ、異業種から介護業界に人材が流入しているという話も聞きますが、実情は。
福留 無資格・未経験の異業種の方のエントリーは、実際増えています。飲食業でリーダーやマネージャーをされていたという方も多く、モチベーションが高い方が多いという印象です。新卒では、ほかの業種に就きたかったが、会社訪問などを通して感染対策などに疑問を覚え、対応や衛生物品の備蓄が整備された介護業界を検討するというケースもあるようです。
山﨑 同様に、未経験の異業種人材が増加していると感じています。特に、飲食経験者による厨房スタッフへの応募が多く来ています。
「働きやすさ」から「安全対策」重視へ
―――こうした応募者が就職にあたって重視するポイントに、従来との違いはあると感じますか。
山﨑 以前の応募者は、「働きやすさ」を重視して職場を選んでいたように思います。現在はそうした面よりも、まずは「コロナ対策」「安全対策」への意識が高いと感じます。法人が対策をどこまでとっているのか、PCR検査は受けられるのかなど、安全に働けるかどうかを重視している。この点は今後の人材確保・定着にも影響してくるのではないでしょうか。
鈴木 当法人で職員に行ったアンケートでも「安全な環境」を重視・評価する声が多数挙がっています。感染防止にどの程度の意識をもって対応しているのかは、人材の定着にも大きく関わってくるところです。
山﨑 当法人では、2週間に1回、全員がPCR検査を受けられる環境を整えています。コストはかかりますが、働く本人もその家族も安心します。検査をしたからといって100%安全な訳ではありませんが、リスクマネジメントを徹底する、法人としての姿勢が見えることも、重要と考えています。
職業理念の理解進む
―――未経験者に係る採用や研修の実施において、留意していることは。
福留 業界外からの転職者の指導には、同じように介護職以外の経験がある人が指導にあたり、ほかの仕事との共通点や介護職の特殊な点などを伝えます。また、喫茶店経験者に施設内のカフェイベントの企画・運営をお願いする、バー経験者が利用者にノンアルコールカクテルを提供するなど、前職のスキルを活かせる機会をつくるよう働きかけています。
山﨑 面接では、介護職に適性がありそうか、やり続けることができそうか。ともかくその点に集中した判断をします。逆に言えば、前職に限らず言葉や育った環境、年齢や性別、性自認、障害の有無などにはこだわらない。多様性を受け入れる用意があります。当法人では、マイノリティといわれる人たちが不安を感じるような受け入れ側の言動や態度がないよう、制度化して管理しています。
研修実施に工夫 現場は試行錯誤
―――コロナ禍でオンライン研修が普及しています。効率的な人材育成に向けた取り組みや工夫について教えてください。
鈴木 確かにオンライン研修の場合は、対面の場合とは異なる工夫が必要になりますね。長時間、ただ資料を読んでいたというような状況にならないよう、教える側の話し方や見せ方にも、スキルが必要になってきます。質疑応答の時間を意識して増やすなど、試行錯誤しているところです。
福留 例年は「他拠点のリーダーに同行して、現場でノウハウを学ぶ」というプロセスを研修メニューに入れていましたが、今年はこれを中止。代わりに、それぞれのリーダーにインタビューを行って、事前に動画を収録し、それを視聴して学ぶ形に変更しました。制作の手間はありましたが、メリットも大きいと感じました。従来の同行の形では、リーダー個人の能力やシチュエーションによって、効果にばらつきがありましたが、動画に集約することで、指導の標準化が進みました。内容もこの方がしっかりと話が伝わり、より内容の理解が進んだようだったため、今後はこの方法で行う方針になりました。コロナ禍が落ち着いた後も、積極的にオンライン研修を活用していきたいと考えています。
職員のフォロー メンタル面配慮
―――コミュニケーションの機会が持ちにくい状況では、メンタル面でのフォローが必要との声も聞かれます。
福留 コロナ禍という特殊な状況で入社してきた新卒社員には、特に配慮が必要だと思っています。当社では、新卒社員1人ひとりにチューターをつけていますが、このチューターの教育も強化しています。例年開催していた集合研修も行えないため、その中で自然とできていた関係性も、あえて機会を設けないと生まれません。関係が希薄になってしまうため、個別に手紙を送って状況を聞くなど、何らかの接点を持つよう働きかけています。
山﨑 労いの気持ちを、明確に示すことが重要です。また、普段から職員の相談ごとは、必ず聞くようにしています。どうしてもその時、聞けなければ代理を立ててでも聞く。自分の話をしっかりと聞いてくれるかどうか、その姿勢が信頼感を生むと思っています。
鈴木 コロナ禍以前から、法人の方針としてお互いを褒め合う、励まし合う、支え合う雰囲気づくりに努めてきました。会社の風土づくりというのは一朝一夕では成りませんから、日ごろからの意識づけが重要です。当法人でも昨年は、例年開催している新入社員の歓迎会を開催できませんでした。その代わりというわけではありませんが、5月から毎週「ハッピーフライデー」として、集まりやすい場所に自由に取れるお菓子を置いています。そういった小さな仕掛けがコミュニケーションのきっかけ作りに繋がればと思っています。
福留 中途採用者の場合、働き出してから「思っていたものと違う」とギャップに悩むことも少なくありません。日々、観察を怠らず、そうした変化をフォローしていくことは、職員の定着のためにも非常に重要になってきますね。
「介護」の仕事、考える好機に
オンライン研修でスキル向上・効率化
―――コロナ禍での人材採用・育成の取り組みを通し、教訓となったことはありますか。
山﨑 新型コロナに限らず、法人内に感染者が出たり災害に見舞われたりした場合にどのような対応を取るべきか、といった計画作成や非常時の対応の必要性を痛感しました。備蓄の重要性も再認識しましたね。
福留 面接や研修がオンライン化したことで、話し方や伝え方、構成などを振り返る良い機会になったと思います。1日かけて行っていた集合研修が半日で実施できることなどが分かり、効率化を図ることにも繋がりました。
感染症に対する怖さはもちろんありますが、社会的意義含め「介護という仕事」について改めて考える機会になったと感じます。介護職員においては、介護の現場で働くという職業理念の理解も進んだのではないでしょうか。
東京都で特養や障害者支援施設など12施設を展開。職員の働きやすい環境づくりを推進しており、都の次世代介護機器のモデル施設として、ICT・IoT機器、リフトなど福祉用具を積極的に導入している。2019年には砧ホームがリフト活用の取り組みで、「アクティブ福祉in東京’19(主催:東京都社会福祉協議会)」にて最優秀賞を獲得している。
■ケアサポート(さいたま市)
埼玉県を中心に関東圏でDSやGH、サ高住などを38施設運営。人材育成に注力しており、階層別の社員研修を充実させているほか、技能実習生の受け入れや障害者雇用を実施。介護サービス経営コンサルタント事業も行う。
■社会福祉法人白岡白寿会(埼玉県白岡市)
埼玉県白岡市で特養や訪問介護、看多機などを運営。ダイバーシティマネジメントに注力しており、外国人など多様な人材に対応した社内規定の策定やLGBTに関する研修などを実施。週4日・短時間勤務正社員など、柔軟性のある雇用形態を設けている。