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---連載③ リスクコミュニケーション、作戦転換必須---

 

 管理原則の父、フランスのアンリ・フィヨールによると、管理には、計画し指揮するためのリーダーシップ、組織して統制するガバナンス、状況に対応して調整し転換することが必要とされて来た。特に災害時の対応には、リスクコミュニケーション、クライシスマネジメントからリスクマネジメントへの展開、そもそもの事前のプリペアドネスが必要で、あらためてこれらを一貫して牽引するリーダーシップ、ガバナンスが必須とされている。

 

 

 

失敗1 政策指揮(リーダーシップ)とリスクコミュニケーション…生かせなかったシナリオ

 

なぜこのような状況に陥ったのか。1つの理由は、2009年から2010年にかけて流行した新型インフルエンザ対応の失敗の反省が生かされなかったことが大きい。あのとき日本では、流行収束後に、厚生労働省の担当局長が専門家を40人集めた総括委員会を8回も開き、詳細な検証が行われ、失敗の原因を洗い出した。

 

これをもとに2012年、民主党政権下で「新型インフルエンザ等対策特別措置法」が公布され、翌2013年には県レベルでのPCR検査に関する方針等も含めた詳細な行動計画が策定された。その中でも政府のリスクコミュニケーションの重要性が強調され、コミュニケーションの専門家の養成が提案されている。しかし、この計画が使われなかったのである。

 

 

一方、ヨーロッパでは新型感染症対応のシナリオが政権内で共有されており、それに沿った対応がなされたと考えられる。例えばイギリスのジョンソン首相は、数理生物学者のニール・ファーガソン教授(ロンドンインペリアルカレッジ)の論文に描かれた出口へのシナリオを示す図を参考にしたと考えられる。目標を「重症者の治療病床が限界を超えないレベルでコントロールするため、介入のオン・オフを繰り返し、死亡者を増やさないようにして収束を目指す」いわゆるハンマー&ダンスとも呼ばれる政策である。

 

EU諸国の各リーダーも、この図のパターンを共有しているように思われる。特にドイツのメルケル首相の場合は、新型インフルエンザ後、2013年に自国で準備したSARSの流行を想定した場合のパンデミックシナリオを見ていた(図7)。

 

図7

 

 

 

今回これを新型コロナウイルスにあてはめて運用したと想定される。いずれも1年半から2年強の行程である。
仮に国のリーダーが、2009年流行した新型インフルエンザ対応の失敗と反省を熟知していなかったとしても、適切な情報、判断材料を提供する専門家がブレーンとして存在すれば、政策は正しい方向へ進む。

 

中央政府と地方政府が連携して進めるその政策を、直接、またはメディアを通して国民が受けとめ、実行すれば、最小限の犠牲で感染は収束に向かうはずである。この4者の関係が、自国の文化や実情に合わせて構築できている国は対策がうまくいっている。

 

 

台湾は2002年のSARS対策を経験した専門家が副総統や保健大臣で、政府内部に取り込まれた好例といえる。スウェーデンの場合も当面の死亡率の評価はさておき、専門家による国民との継続されたリスクコミュニケーション、政治家との適度の距離から見て信頼関係とリーダーシップを示す好例である。

 

今回は世界中が同じ政策課題をかかえ、ほぼ同時に取り組んでおり、国際比較政策研究、ガバナンスの研究には大変重要な好機といえる。残念ながら日本は官邸、行政組織、専門家の間に亀裂が存在し、それぞれの役割が曖昧で、メディアの情報にも偏りが目立つ。政府の方針はもともと曖昧で、国民は翻弄されるばかりである。いくつかの国と比較して4者関係を分析する必要があろう。

 

 

 

クライシスマネジメントからリスクマネジメントへ

 

失敗2 政策転換(トランジション)…引きずり続けたクライシスマネジメント

 

2つめの失敗は、当初の水際作戦から、感染拡大時の持続作戦への移行がうまくいかなかったことにある。新型コロナウイルスが国内に入ってきた時点では、水際で侵入予防する封じ込め作戦、つまり重いコストを負担してでも小さなリスクでも潰す防疫の戦略は合理的で適切な選択であろう。

 

しかし、この作戦は短期集中に限る。市中感染が見られるようになったら、速やかに持続作戦に移るべきである。目の前に現れた現在のリスクを潰すクライシスマネジメントから、未来のリスクを想定し層別化するリスクマネジメントへの移行が必要である。リスクマネジメント理論に基づいて対象のリスク即ち損害の可能性を層別化して、対象をグループ化し、多少の受容できるリスクは受け入れて日常の生活を優先し、コロナ対策はより高リスクの対象に絞って行うのが現実的である(図8)。

 

図8

 

 

 

リスクを受け入れて生活するためには、合理的で許容できる(reasonably allowable)リスクの範囲、社会活動を安全に行うためのポイントなど、必要な知識を根拠に基づいて整理して、国民及び関連の団体にわかりやすく示す必要がある。これらができずに水際作戦の発想、クライシスマネジメント(危機管理)を引きずった結果、日常の生活、若者の未来に不要で膨大な負担が生じている。

 

 

一般社団法人未来医療研究機構 長谷川敏彦代表理事

(プロフィール)
アメリカでの外科の専門医レジデント研修など15年の外科医生活、ハーバード大学公衆衛生大学院での学習研究を経て1986年に旧厚生省に入省し、「がん政策」「寝たきり老人ゼロ作戦」を立案。その後、国立医療・病院管理研究所で医療政策研究部長、国立保健医療科学院で政策科学部長。日本医科大学で医療管理学主任教授を経て、2014年に未来医療研究機構を設立。現在、地域包括ケアや21世紀のための新たな医学、公衆衛生学、社会福祉学そして進化生態医学創設に向け研究中。

 

 

 

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