少子高齢化の進展、働き手不足、さらには新型コロナウイルス感染症の拡大。先行き不透明な状況が続くが、この先、中長期的には高齢者介護業界はどのような変遷をたどるのか。日本のみならず、米国のヘルスケア事情にも詳しいKPMGヘルスケアジャパン(東京都千代田区)の松田淳代表取締役/パートナーに、業界展望を聞いた。

 

 

 

──介護業界の新規参入・M&Aの現況は

松田 業界への新規参入が大幅に減少している。たとえば高齢者施設・住宅業界については、ピークの2012年頃には年1000社程度の新規参入があったものが、現在は年300社程度に減少。背景には、人材確保が厳しくなっていること、事業モデルの高度化・複雑化が進み参入障壁が高まっていることがあると考えられる。

また、ビジネスモデルを確立できなかった事業から撤退を考えている事業者も増加している。一方、既に業界参入しており事業基盤を確保しようとする事業者は規模の拡大や事業領域の拡張を検討している。買い手は減少したものの厳然と存在しており、優れた事業モデル、ないしは希少性の高い事業者には高いバリュエーションが付いている。

 

 

──大手による寡占化は進むのか

松田 介護業界全体でみた場合、上位企業の事業規模拡大は続いているものの、上位50社程度の占有率(業界シェア)は過去10年でむしろ低下している。市場の方向性として、大規模事業者への集中に突き進むという状況ではなく、一定程度の大手事業者と圧倒的多数の中堅・中小の地域密着企業が存在する分散市場である状況は今後も変わらないだろう。

事実、米国でもそうした状況にあり、大手寡占市場とはなっていない。そうした中、サービスプロバイダー(介護サービスを提供する事業者)の買収による統合ではなく、介護事業者に対するプラットフォーマー、業界におけるDX事業者などを目指す動きが顕在化している。具体的には、介護記録、業務系システム、センサーなどの事業、食事関連事業、人材関連事業などがターゲット。

これらの業界には、事業者のみならずファンドも強く興味を示しており、実際に買収が多く成立し始めている。米国の高齢者施設・サービス事業者は、事業全体の3分の1程度はマネジメント契約による運営受託業務であり、日本でもこうした事業の統合によりプラットフォーマーが出現し、米国のような事業モデルに発展していく可能性があるとみている。

 

 

 

──ファンドの動向は

松田 ファンドの投資対象は様々。大手事業者のTOBを目指す動きから、地域事業者のロールアップ(買収による統合)まで大小さまざまな案件が検討されている。関連事業においても同様だ。ただし、かつてのように新規参入者を含めて多数の買い手が存在しているという状態ではないため、ファンドは案件内容をじっくり選別する状況。投資対象のビジネスモデルは厳しく精査されるようになっている。

 

 

 

──コロナの影響は

松田 欧米の状況と比較すると極めて低い感染発生状況、特に高齢者施設・住宅の感染予防状況は優秀であった。これは、欧米の運営管理方法が賃貸住宅ルーツであるのに対し、日本が医療機関的な予防体制であったことも大きく寄与しているとみられる。事業収支的には、介護業界、特にデイサービスや訪問介護業界は大きな影響を受けたことは周知の通りで、事業継続に支障が出ていることころも多数存在。

これに対して高齢者施設・住宅業界の受けた影響は比較の上では小さかったが、稼働率には3〜5%程度の影響を与えたとみられる。米国でも稼働率に与える影響は同程度。稼働率低迷の主因は保守的な受け入れスタンス、一方で入居希望は比較的強いという声が大きい。家族との面会ができないなどの状況を敬遠したという動きもあるが、コロナの影響ではなく単純に競争力の低下という状況を「コロナ」と言っている事例も多くみられ、要因に精査が必要。

コロナを踏まえた運営上の課題は、コミュニケーション、アクティビティ、医療機関との接点の維持・強化で、欧米ではデジタル・オンラインを活用したサービス提供体制などコロナを契機としたイノベーションが進みつつある。

 

 

 

──介護業界の中長期展望をどう見るか

松田 「高齢者のライフスタイル維持の実現」と「高度な介護サービスの提供」の2軸での質の向上が強く求められるだろう。今後進むであろう、要求水準の高い高齢者およびその家族への世代交代と、社会保障費急増への対処に伴う介護報酬改定のトレンドに対応するためには避けることのできない流れであると考える。

高齢者のライフスタイルの維持・実現の観点からは、介護業界以外の周辺産業、たとえばデータおよびロボティクス業界、食関連業界、金融・保険業界などとの協調・融合が必要となる。一方、高度な介護サービスの提供の観点からは、医療業界との協調が求められる。近時、がんやパーキンソン領域では疾患特化したケアの議論が行われているが、本来は精神疾患を含むさまざまな疾患特性に応じたケアが確立されていくべきであろう。

 

米国は周辺事業買収でプラットフォーマー化も

 

 

KPMGヘルスケアジャパン 松田淳代表取締役/パートナー

6年間の米国駐在を含めて日本長期信用銀行に13年間勤務。

2002年にKPMGヘルスケアジャパンに参画。医療機関、シニアリビング事業者、製薬企業等を含むヘルスケア産業に関する事業体の戦略立案、投資・ファイナンス、事業再編、事業再生に関するアドバイザリーサービスに従事している。

 

 

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