---連載⑥ 重症者・死亡者低減を戦略目標に---
コロナの総合政策をリスクマネジメントへ移行し、前述の2つの距離を実行するには、国民全体をリスクによって層別化し対応政策を練ることが必須となる。特に現時点で一番被害をこうむり、長期に影響を持つ若年者への戦略が極めて重要となる。
戦略1 移行戦略…国民をリスク別に3層に分け、グループ別の政策を
① 3層グループ化
持続戦となった2年の間の戦略的目標は死亡を予防することであり、そのために重症者を出さないことにある。感染者を出さないことではない。重症化しにくい人の場合は、決して感染は悪いことではない。罹りにくく、うつしにくくなると考えられる。持続戦移行後に、感染者を出すなと叫ぶことは、膨大なコストをかける水際戦を続けよ、と叫ぶことである。
低リスクグループは40歳以下若年者、特に持病を有さない元気な人である。それぞれ個々人で持つリスク「重篤度」と、生活や活動の場のリスク「頻度」を掛け合わせてグループ化することがリスクマネジメントの基本である。
そこでまず全国民を、今判明しているリスク要因で3つに層別化することを提案したい。若年者、特に40歳以下で健康リスクを持たない人、高齢者と同居していない人は「低リスクグループ」、高齢者及び若年者で健康リスクを持つ人、高齢者と同居している人は「高リスクグループ」、病院や介護施設の入院入所者など不具合や病気を抱えていることが多く、従業者と予防距離が取りにくい濃厚接触が前提の集団は「超高リスクグループ」となる。
大雑把にいってそれぞれのグループは、人口の2分の1〜3分の2、2〜3割、1〜2割となる。そしてそれぞれに対し生活の仕方、感染した場合の対応法をあらかじめ周知しておく。さらに層を超えてコンタクトするときのリスクを最新の数理モデルで予測し、適切な予防策を社会に浸透させていくことが重要である(図14)。
つまり低リスクグループには個々人が高リスクグループにうつさぬ行動様式を、高リスクグループには予防距離をとってうつされぬ行動様式と、うつった場合の重症化予防の方策を進めること、そしてそれを可能にする環境作りをすることが急務である。
② 場所ごとの課題(図14)
「介護施設や病院」ではリスクトレードオフの考えを前提に、当面、高リスクを想定した厳密な予防法を取らざるを得ない。
「学校」のリスクは特に低学年ではとりわけ低リスクグループである。高齢の、特に生活習慣病のある教師への感染が重症化のリスクを持っており、その保護が対策の中心となる。
しかし一定のリスクは取らざるを得ず、前述のごとくオンライン授業化による大学の存在意義への根本的疑問から、あるアメリカの地方の大学の学長は、「このまま学生がいなくなり大学が死ぬリスクの方が、教授が感染して死ぬリスクより重たい」とYouTubeで悲痛な顔をして語っていた。
「家庭」は感染者が発生すると濃厚接触を避けえない。特に重症化するリスクのある高齢者や生活習慣病のある人の保護が必要となる。これまでの麻疹などのときの家庭での暮らしの工夫を振り返ってみることも有用と思われる。いずれにせよ家庭内の発生は感染経路の終着点である。
スポーツ、音楽会などの「イベント」の感染の多くは3密とか言われていても、飛沫から手指を介した接触感染が大半である。正確には次号で述べる研究戦略で述べるエアロゾルの定量的研究が必要であるが、感染の責任逃れのための非現実的ガイドラインは接触感染を念頭に見直すべきである。
日本のGDPは今年、大幅な減少が予測されている。その後、数年にわたって大不況大量失業が想定される。
今回の経済不況はリーマンショック時の金融システムの不全によるものではなく、マスメディアに煽られたコロナへの誤解からくる恐怖で、需要がもとから断たれているところに問題がある。戦略の早期の移行があり、マスメディアの誤った洗脳がなければ、もう少しダメージが抑えられたのではと悔やまれる。日本の医療界、公衆衛生界は、その総力をあげて高リスクグループを守る方策を編み出すべきである。そのための研究計画を次回提案する。
感染症抑制策は重点化へ転換
若者への負担軽減必須
戦略2 若者コロナ戦略…特に若年者のリスク軽減を
1990年のバブル崩壊以降いわゆる「失われた30年」、日本のGDPはほとんど伸びていない。そのツケを日本の若者は非正規雇用、低賃金、低資産として払わされてきた。
結果、大量の引きこもり、世界有数の子どもの貧困(7人に1人)、非婚化、それがもたらす少子化である。コロナ政策による倒産、失業の波に襲われているのがすでにこの大きな社会の負担にあえいできた若年層である。特に団塊ジュニアは、かつては就職氷河期、これから親の介護、そして自らの老後は、資産もなく、制度による支えも期待できずに老いることになる戦後初めての世代で、間違ったコロナ政策で、制度に代わる貴重な社会的資本「社会距離の短縮」さえも奪われようとしている。
負担は子どもたちにも及んでいる。3月2日、科学的根拠なく安倍前首相の政治判断で突如スタートした全国一斉臨時休校により、子どもたちは学ぶ機会を奪われ、在宅でのストレス、抑うつ傾向に陥ることになった(日本小児科学会5月28日発表)。小児科学会の報告では、防いだ疾病より閉校による健康被害が大きいと結論付けている。なぜなら小児では重症者はほとんどなく死亡者はいない。子供への影響は長期、何世代にも昇ると危惧される。
コロナ政策の得失バランスシートを見てみよう(図15)。
緊急宣言後のステイホーム政策により予防可能な死は殆どが70歳以上で、一方これから起きる不況による自殺、うつ病などは若年者である。医学的なバランスは、更に倒産や教育機会の喪失、離婚などの社会経済的なバランスを考えると若年者は圧倒的に不利である。
これからの政策はコロナのみでなく全体の損失をどう防ぐかの戦略でなければならず、若年者に焦点を合わすべきである(図15)。
一般社団法人未来医療研究機構 長谷川敏彦代表理事
(プロフィール)
アメリカでの外科の専門医レジデント研修など15年の外科医生活、ハーバード大学公衆衛生大学院での学習研究を経て1986年に旧厚生省に入省し、「がん政策」「寝たきり老人ゼロ作戦」を立案。その後、国立医療・病院管理研究所で医療政策研究部長、国立保健医療科学院で政策科学部長。日本医科大学で医療管理学主任教授を経て、2014年に未来医療研究機構を設立。現在、地域包括ケアや21世紀のための新たな医学、公衆衛生学、社会福祉学そして進化生態医学創設に向け研究中。