管理職のマネジメント力向上を

 

保育現場からは労使間トラブルなどの法的な相談が増加しているという。安全性を確保しつつ、保育の質を高めるためには、管理職である園長のマネジメント力が求められている。介護・保育専門の弁護士である畑山浩俊氏( 弁護士法人かなめ 代表) と介護・保育現場でのリスクマネジメントに詳しい堀江健氏( あいおいニッセイ同和損保 マーケット開発部 市場開発室 室長) に、保育事業者がとるべき対策について語ってもらった。

 

 

■――保育事業者からはどのような相談が寄せられているか。

 

畑山 弁護士法人かなめは、介護事業者・保育事業者向けに特化して相談を受けていますが、最も多い相談といえば、パワーハラスメントです。いわゆる一般的なパワハラもそうですが、近年は「パワハラ」という言葉が正しく理解されないまま使われてしまっているがゆえに、業務上必要な注意・指導にもかかわらず、従業員がパワハラと言ってくる「逆パワハラ」に悩まされている事業所が増えています。また、全産業でカスタマーハラスメントも年々増加傾向にあり、保育事業者はカスタマーである保護者からの過度な要求に対して、どのように対応すべきなのかという相談も少なくありません。

 

弁護士法人かなめ 畑山浩俊代表
介護幼保特化弁護士。 経営者や管理者も弁護士に相談できるオンライ
ン顧問「かなめねっと」を全国展開。コロナ禍でも非接触で迅速に相談
できるサービスとして注目を集める。新型コロナ関連の法律相談や、メ
ンタル・ハラスメント等の労務トラブル対応を数多く手掛ける。

 

 

堀江 当社は「地域密着」を行動指針の一つとして、全国の地方公共団体と連携協定を締結し、地域の課題解決に向けた活動に取り組んでいます。近年は特に保育所・幼稚園・認定こども園などの就学前施設の課題解決に注力していますが、保育事業者のサポートをするなかで、私たちの耳にも労使間トラブルに関する話は頻繁に入ってきます。給与明細すら見たことがないという職員がいたり、職員が集団で他の保育事業所に転職してしまったりするなど、生々しい事例を目の当たりにして、どうすれば保育士の皆さんに寄り添えるのか、我々がどういったことをサポートできるのかを、日々模索しています。

 

あいおいニッセイ同和損保マーケット開発部 市場開発室 堀江健室長
1990年現あいおいニッセイ同和損保に入社。東京を中心に
17年間勤務の後、福祉マーケット専門プロジェクトの立上げに伴い、企画・立案を担当し、各種団体等の要請によりセミナーを展開。2012年より、マーケット開発部 市場開発室にて現職。

 

 

■――コロナ禍による影響や変化はあるか。

 

畑山 新型コロナウイルス感染拡大に関する相談が増加しています。例えば職員の一人が濃厚接触者となってしまった時の出勤停止の基準や陽性者が出た場合の休業時対応、地域住民への公表の必要性有無、風評被害などについて問い合わせが寄せられています。1つ例をあげると、ある保育事業所で職員の一人が濃厚接触者になってしまったのですが、園長がそのことについて、保護者の前でつい口を滑らせてしまったことが原因で、その職員は職場復帰に気が引けてしまい、結局退職してしまったケースがありました。プライバシーが保護されなかったとして、園長と事業者側は従業員から責任追及されてしまいました。

 

また、他の事業所では匿名電話で「おたくの保育園でコロナが出たのか」という問い合わせが入るなど、コロナに関連する対応に追われています。保育士は地域とのかかわりに配慮しながら、子どもたちの命を預かる立場として、日々目に見えない漠然とした不安やプレッシャーを抱えてながら働いています。

 

 

 

堀江 コロナ禍での変化といえば、最近は管理職の方とお話をするなかで、大手の保育事業者を中心に、昨今の重大事故の増加などを受け、研修内容そのものの見直しや研修体系を見直している事業者が増えているようです。今まで実施してきたリアルでの研修やセミナーの受講が難しくなっているため、オンライン研修の要望が増えており、当社もそれに応えるために、オンラインセミナーのメニューを充実させています。

 

 

 

弁護士とSNSで相談可、法的トラブル・不安解消

 

畑山 コロナ禍で保育・介護業界ともに現場職員がオンラインに対応し始めたことは良いことですね。当法人が展開している「かなめねっと」はSNSで、現場の法的な困りごとについて園長などの管理者が弁護士に速やかに相談できるサービスなのですが、オンライン文化が浸透することで、以前よりも士業などの専門家と現場がつながりやすい環境になったと感じています。

 

 

 

事故防止専門プログラム「before対策」の一助に

 

 

■――様々な課題に対して、保育事業所はどのような対策をとるべきでしょうか。

 

堀江 コロナ禍での困りごとや労使間トラブルなどにより、職員が不安を抱えたままでは、子どもたちの安全は守れません。問題が起こった時の「after対策」として、「かなめねっと」は事業者に安心を与えていますね。一方、安全を守るためには、専門スキルや知識習得、ツールが必要であり、「before対策」も重要だと考えています。

重大事故や災害を経験して初めて対策を真剣に考える事業者が少なくないですが、事業継続という観点からも日頃からリスクマネジメントに取り組み、「before対策」「after対策」の両方をしていくことが大切です。そして何といっても、園児、保護者、保育士それぞれのセクターが密にかかわっている現場を改善するためには、管理者である園長のマネジメント力が求められます。

 

 

 

畑山 同感です。安全性と質が確保されていない事業者は淘汰され衰退していきます。地域での評判が悪ければ、経営に直接影響するだけでなく、大学などの教育機関とのパイプが弱くなり、採用困難に陥ってしまいます。各保育事業所がその地域で独自のブランディングをしなければなりませんが、そもそも経営状況が悪い事業所は、職員の教育やサービスの質向上にベクトルが向いていない。管理者が自信を持って的確に判断し、原理原則に基づいて業務遂行できるようにするためにも、マネジメント層の育成は不可欠です。

 

 

 

■――保育事業者に対してどのようなサポートを行っているか。

 

堀江 保育士の皆さんは子どものケガや病気、アレルギー、感染症予防や風水害への対策など、高い安全管理が求められています。様々な不安を抱えながら毎日働いている保育士の皆さんが、より安全・安心に質の高い保育が提供できるよう、保育事業者向けの事故防止専門プログラム「こどもあんぜんマイスター制度」を今年1月から開始しました。

 

〝知る〟〝実行する〟〝高める〟といった3つの側面から保育士の皆さんの安全・安心に関する質の向上を目指す制度で、継続的な情報収集や各園における研修・ワークの実践、事故防止に関するリスクマネジメントセミナーの受講を通して、保育士個人のスキルアップと事業所全体の安全レベルの向上を目指していただくものです。一定要件を満たした保育士には専門的な事故防止ノウハウを習得した証として認定証が付与され、個人のスキルと安全性を可視化できます。さらに「こどもあんぜんマイスター」が在籍する園には〝安全性の高い園である〟ことを示すプレートを発行します。安全・安心に関わるプログラムの提供を通して、さまざまな側面から保育士に寄り添い、サポートします。

 

 

 

畑山 安全・安心を支える教育体制は、保育事業所のPR、そして保護者への安心にもつながりますね。当法人は相談サービス「かなめねっと」を通じて、経営者だけでなく、現場責任者も一緒になって課題解決していきながら、組織の基盤を強化していきます。労使間トラブルなど人間関係に課題がある場合は、第三者が介入することで、スキルアップ・サービスの質向上を実現させている好事例もたくさんありますので、外部サービスは大いに活用すべきだと考えます。

 

 

 

 

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