慢性疾患のみから急性疾患も 海外と比較し在り方を考える

 

新型コロナの感染症拡大で、感染病床が逼迫し、医療崩壊の危機を間近に感じた人も少なくないのではないだろうか。新規感染者数は減少傾向にあるものの、緊急事態宣言の発出された10都府県においては重症化リスクの高い要介護高齢者が在宅や施設で待機をすることを余儀なくされている地域はまだ存在する。

 

 

 

また、在宅医療を受けていた患者や家族の中には、重症化しても病院には行きたくない。住み慣れたこの場所でできる範囲の治療をやってほしい。それでだめなら運命として受け入れる。そんな意思表示をされる人も増えてきている。

 

 

 

私たちのチームも、新型コロナに感染した高齢在宅患者の療養支援に本格的に取り組んでいる。中には酸素投与やステロイド投与、合併症への治療などを自宅で行いながら、自宅で看取りとなるケースも出てきている。
第一波・第二波では、発熱者は病院の発熱外来で診断をしてもらうのが一般的であった。しかし第三波では、発熱患者の診断は地域医療機関の役割となった。

 

 

 

多くのかかりつけ医が抗原検査・PCR検査の実施に対応し、保健所では対応しきれない行政検査を支援するまでになった。悠翔会だけでも年明けから複数の高齢者介護施設で、入居者や職員に対する全数検査を保健所との連携において実施している。

 

 

 

自らが感染することを、そして感染者をケアしていることに対する地域の風評被害を恐れて一歩踏み出すことができなかった地域の在宅医たちも、在宅や施設のケアの現場で感染が拡大しつつある現在、自らが感染拡大との戦いの最前線にいるとの認識を持ちつつある。
そしてこれは、これまで「慢性疾患の管理」が主たるミッションであった日本の在宅医療の世界に「急性疾患の治療」という新たな役割を与えるきっかけになるのかもしれない。

 

 

 

他国の医療的ケア事情

 

実は海外では、在宅医療の主たるミッションは急性期の管理だ。
フランスの在宅医療(HAD:在宅入院)は、術後や周産期のケア、感染症の点滴治療、抗癌剤投与など比較的侵襲性の高い急性期の医療的ケアまで在宅で提供する。イギリスの在宅アウトリーチチームは病院に所属し、救急要請した患者の自宅に急行、治療の多くを自宅で完結させる。

 

ドイツの緩和ケアチームは、苦痛の緩和が困難な事例にやはりアウトリーチし、地域のケア専門職と連携しながら在宅で高度な緩和医療を提供する。いわば自宅を「入院ベッド」と位置付け、急性期・不安定期の治療を行うのが海外の在宅医療だ。フランスや上海では在宅病床として地域医療計画に反映されている。

 

 

 

もちろん老年症候群や慢性疾患の終末期などのケアも必要だ。しかし、これは在宅医療というよりは在宅ケアの仕事であり、主治医は在宅専門医ではなく家庭医(GP)だ。GPは日本の在宅医のように月に2回、患者の自宅を訪問するなどということはしない。医療的ケアの担い手は主に訪問看護師であり、医師は彼らからの報告を遠隔で受けつつ、指示や助言を行う。必要があれば往診はするが、その頻度は低い。

 

 

 

つまり、海外では自宅での急性期治療を在宅医療、慢性期や老年期を在宅ケアが担う形になっている。そして、その担い手の主役はいずれにおいても訪問看護師だ。

 

 

 

日本の在宅医療の主たる対象は老年期や慢性疾患の患者だ。もちろん定期的な投薬や検査が必要だが、その医療依存度の比較的低く、加齢や病気の進行に伴い医療は「引き算」されていく。

一方、肺炎などの急性疾患に対しては容易に入院が選択される。24時間看護が提供されている一部の特定施設を除き、急性期の対応は原則としてできないとされる施設も多い。
疼痛緩和も在宅である程度できるようになってきたが、それでも、うまくいかない時には緩和ケア病棟に入院となる。
安定した軽症患者に手厚い訪問診療を行う一方、具合が悪くなったら入院させる。

 

 

社会のニーズ考える

 

日本の在宅医療は、果たしてこのままでいいのだろうか。
確かに患者の目線から見れば、入院できる安心感もあるかもしれない。しかし実際には入院を望まない患者も少なくない。そして特に要介護高齢者は入院によって心身の機能が低下することもよく知られている。

 

新型コロナによる入院ベッドの逼迫により、在宅医たちは患者を「入院させられない」という状況の中での在宅医療を経験した。そして、もしコロナが終わったとしても、高齢化・重老齢化が進んだ大都市部では、入院ベッドが慢性的に不足するという状況はおそらく避けられない。

 

 

 

在宅医療が社会のニーズに応えていくために、地域の在宅医療機関は、そして在宅を支える多職種の連携はどうあるべきなのだろうか。新型コロナのパンデミックは、在宅医療・ケアの今後を中長期的視野で考えるよい機会になったと思う。

なお、フランスの在宅医療(HAD)の実際の取り組みを学ぶセミナーも計画されている。HADの運営者から直接、運営や課題について話を聞くことができる(逐次通訳)。在宅医療関係者は一度、聞いてみてもよいかもしれない。

【オンライン・セミナー】フランス医療 HAD 在宅入院

https://peatix.com/event/1812391

 

佐々木淳 氏
医療法人社団悠翔会(東京都港区) 理事長、診療部長
1998年、筑波大学医学専門学群卒業。
三井記念病院に内科医として勤務。退職後の2006年8月、MRCビルクリニックを開設した。2008年に「悠翔会」に名称を変更し、現在に至る。

 

 

 

スポンサーリンク

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう