コロナ禍が少子高齢化を加速させている。厚労省が1月22日に発表した昨年の人口動態統計の速報は、社会保障政策の基本を揺るがしかねない数値となった。
まず死亡数。138万4544人となり、前年の速報値より9378人減った。高齢化により確定値の死者は毎年1万7000~3万2000人のペースで増え続けてきた。減少したのは09年以来11年ぶりだ。コロナ禍で死者が減少するとはどういうことか。「恐ろしいウィルスなので、これまでにない多数の死者が出る」と医療界やメディアから散々脅されてこの結果である。
コロナによる死者は7672人(2月24日現在)で欧州と比べ桁違いに少ない。英国が12万人、イタリアが9万6000人、フランス8万5000人。日本のほぼ半分の人口の諸国でこの大差である。30倍以上の違いは台風と夕立のよう。死者が83人のタイや35人のベトナムなど東アジアは少ない。
それでも日本では緊急事態を宣言。経済活動を大きく縮減させ、社会生活は一変した。どうみてもバランスを失した対策と言わざるを得ない。
外出抑制によってかインフルエンザの死者が激減した。厚労省が発表している最新の死因別死者数は昨年1~9月まで。そこで目を引くのは、前年同期より2314人も減少したインフルエンザだ。インフルエンザは肺炎や心筋梗塞などの原因となり、死につながるといわれる。肺炎の死者が1万2456人も減少しているのは、このためと見られる。
死因第2位の心疾患と4位の脳血管疾患、それに5位の肺炎など多くの疾病がいずれも前年比減になった。前年より増えたのは第1位のがんと3位の老衰である。死者全体の28%と断然トップのがんは相変わらず増勢。そこで、老衰が前年より6737人も増えているのは注目したい。
老衰死とは特定の臓器が死因でない場合である。厚労省は「高齢者で他に記載すべき死亡原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用います」と定義する。医師向けの「死亡診断書記入マニュアル」で明記した。
老衰死は1950年代から減り続けていたが、2009年に前年を1万人以上上回ってから増勢に転じ以降増え続けている。07年の3万7000人が、10年後には10万人を超えた。死因順位も15年の5位からわずか4年後に3位に浮上。
自然死なので、延命治療を望まない高齢者の広がりとも言えるだろう。コロナ騒動で病院への足が遠のいたこともあり、病院死の減少に拍車がかかりそうだ。自宅での自然死が小説や映画でよく取り上げられるが、実は特別養護老人ホームや有料老人ホームなど施設死が多い。自宅や施設に通う在宅医、付随するオンライン診療が病院に代り慢性期高齢者対応への主役に近づいてきた。
人口動態統計では昨年の出生数の速報値も明らかになった。過去最少の87万2683人で前年より2万5917人も少ない。外国人などを除いた確定値の公表はまだ先だが、19年の「86万ショック」をさらに押し下げ84万人前後になるのは確実。今年はコロナ禍で75万人前後まで落ち込み、以降も大幅減少が続きそうだ。
というのも、発表された20年の婚姻数が前年比12.7%も減少したからだ。1950年以来の戦後2番目の大きな落ち込み。欧米と違い、出産が結婚と直結しているのが我が国。婚姻数の減少は少子化を招く。
高齢者が大半である死者が少なく、出生数も先細り。国の計画を上回るスピードで少子高齢化が進む。医療や介護の保険、年金など社会保障に与える影響は大きい。
浅川 澄一 氏
ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員
1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。