コロナ禍での趣味活動の危うい点
下の図は日本能率協会総合研究所が昨年10月に60歳から90歳の2500人を対象に実施した調査結果です。
「3年前に比べて回数が増えた趣味は何か」という設問に対して、テレビ視聴17%、園芸・庭いじり16%、散歩・ウォーキング14%、読書13%、ビデオ鑑賞8%との回答を得ています。
注目したいのはテレビ視聴とビデオ鑑賞の増加です。実はテレビ視聴時に大脳の前頭前野(ぜんとうぜんや)に「抑制現象」が生じることが東北大学の川島隆太教授らの研究でわかっています。
前頭前野は情報処理と思考の中枢であり、コミュニケーションや判断、意思決定など重要な機能を担っています。この部位の活動に長時間抑制がかかると、活動が低下した状態が長く続くことになり認知機能の低下につながります。
認知機能の低下 コロナ禍で進行
また、この現象はテレビ番組の種類に関係なく生じます。ビデオ鑑賞も脳科学的にはテレビ視聴と同じであり、ユーチューブの視聴も同じです。
抑制現象が生じている場合の前頭前野は、実はリラックス状態にあります。このため一日の仕事が終わった後、2時間程度視聴するのならリラックス効果として問題ありません。ところがこれを一日5~6時間以上、毎日続けると弊害が出ます。
つまり、コロナ禍で前頭前野の活動を抑制する生活スタイル、いわば「アンチ・スマート・エイジング」が急増しているのです。メディアはコロナ渦の話題ばかり報道していますが、その陰で多くの中高年の方の認知機能の低下が確実に進行しているのです。
テレビ・ビデオ視聴一日2時間が目安
対策としてはテレビ視聴とビデオ鑑賞は、一日2時間程度にすることです。本当に見る価値のあるものだけに絞りこむことが重要です。また以前取り上げた脳トレを一日15分程度集中して行うことです。これにより活動量の低下した前頭前野を活性化できます。こうした生活スタイルもウィズコロナ時代のニューノーマルでしょう。
村田裕之氏 村田アソシエイツ代表 東北大学特任教授
87年東北大学大学院工学研究科修了。日本総合研究所等を経て02年3月村田アソシエイツ代表。06年2月より東北大学特任教授。わが国シニアビジネス分野のパイオニアで多くの民間企業の新事業開発に参画。高齢社会研究の第一人者として講演、新聞・雑誌への執筆も多数。著書に「成功するシニアビジネスの教科書」(日本経済新聞出版社)など多数。