――最終回 総括――

 

コロナで社会課題浮き彫り 超高齢社会への備え迅速に

 

 

1 求められる根本的発想の転換

ここ1年間のコロナ騒動を振り返ってみると、ウイルスそのものによる健康被害はそれほど大きくないにもかかわらずコロナ対策による社会や個人のインパクトは極めて大きい。その結果、中国と欧州やアメリカの地政学、民主主義や人権のあり方、政治、生き方や暮らし方の哲学等の領域、はたまた生態や身体観、免疫学などの生物学獣医学、医学の領域など多岐にわたる。

 

 

 

新型コロナウイルスパンデミックによって以前より日本が抱えていた医療や社会の課題が浮彫となった。経済、政治、哲学、文化、生活の根本的見直しが迫られている。このウイルスに払った大きな犠牲から考えてもこれをチャンスとして、世界のそして日本の未来を考える良い契機とすべきである。ひょっとするとコロナは人類への素晴らしい贈り物かもしれない。

 

 

 

2 当面の総括と準備を

感染症対策でいえば、とりあえずこの幕下級のコロナ騒動を政策学的にできるだけ早く総括し、本格的横綱級の新興感染症に備えねばならない。今、中国は一帯一路政策でアフリカの奥地まで入り込み、野生動物との接触で死亡率の高い本格的感染症を世界にもたらす可能性が高い。そして2043年までに発生確率70%と謂われ明日にでも起こりうる首都圏直下型地震や富士山噴火の準備を完了すべきだ。個人的には死ぬ前に富士山の噴火は一度見てみたい気もするが。

 

 

 

3 急速に高齢化する世界に

 

2019年の国連推計によると、超高齢社会、即ち65歳以上人口が21%を超えている国は、2020年現在で、日本、イタリア、ドイツのほか南欧諸国を中心に10ヵ国に過ぎない。しかし2060年、たった40年後には95ヵ国、世界201ヵ国の約半分が超高齢社会となる。

 

その上位20ヵ国は韓国を筆頭にアジアの国々が7ヵ国、次いでスペインを筆頭に南欧が5ヵ国、その次にポーランドを筆頭に東欧が7ヵ国、従来の北欧西欧の国はいない。22位にタイが、31位に中国がつけている。韓国は悲惨で政府の予測によると65歳以上が2060年には43.9%、なんと2067年には46.5%、人口の約半分が高齢者というあり得ない社会になる。台湾は39.7%、日本だって38.1%に達する。日本の数値なら存続し得る社会だろうか。中国はその時、全国平均で29.8%ではあるが、沿海部や長江流域は日本と変わらないだろう。

 

 

 

 

 

4 コロナの高齢化への影響

さらに特記すべきは、コロナ政策により世界的に出生数が減少している事である。特に中国の減少は著しく速報値で2020年の出生数は前年比で460万人減少したと報告されている。日本でも婚姻数の減少や妊娠数の届け出の減少から想定して2021年には77.6万人10%以上の落ち込みが予想されている。

 

若年女性や高齢者の死亡に加えて出生数の減少は日本人の生命への深刻な影響といえよう。日本の将来を担う命を産み出し育む若い女性への不要な負担は厳に慎むべきである。負のインパクトは世代を超えて受け継がれるからである。
今回のコロナ政策の若年者への負のインパクトから考えて高齢化は加速し、従来の予測より早く未曾有の高齢社会が到来すると考えられる。

 

 

 

5 アジア〝共老圏〞から新たな高齢社会のデザインを

コロナ問題はソーシャルディススタンスの近い欧米にしっかり悩んでもらって、我々はとっとと片づけて本当に悩まねばならない深刻な問題に本気で共に取り掛かるべきである。コロナのパンデミックは確かに大きな衝撃を世界にもたらしたものの、解決策は従来の社会や医療の枠組みから想定可能である。しかし高齢社会の解決にはどこにも答えはない。

 

 

たまたまコロナ成績が優秀であった我々アジア諸国はコロナなんかに悩むゆとりはない。このアジア諸国こそがここ数十年世界の経済を牽引してきた。途上国の中でも唯一医療保険の皆保険を達成した国々が並ぶ地域である。であるがゆえに世界の高齢化を牽引している。元来東シナ海を囲む地域は、1000年以上にわたってヨーロッパの地中海よりもはるかに豊かな貿易、文化、情報の交換の場として厚い歴史を持つ。コロナ政策の目的はコロナ対策ではない。共に老いるアジアの国々と連携し研究し、世界に21世紀高齢社会の新しいデザインを提示することに他ならない。

 

そのためには貴重な社会資本「社会距離の短縮」を蒸発させてはならない。高齢者のリスクを回避するために高齢社会の担い手、若年者の人生のチャンス、未来を破壊してはならない。
日本の原点に戻り自らの過去の経験と文化に基づいて未来を創造する作業を始めねばならない。

 

 

 

 

 

【参考】
介護施設等での現実的なガイドラインとして以下のサイトをお勧めする。
その内容のコンパクトな解説が今後この紙面で3回にわたって連載される予定。「日本環境衛生安全機構ガイドライン」東京慈恵会医科大学臨床検査医学講師 越智小枝氏全業種【マスターガイドライン】の中に介護施設ありhttps://jehso.org/guideline/

 

 

 

一般社団法人未来医療研究機構 長谷川敏彦代表理事

 

一般社団法人未来医療研究機構 長谷川敏彦代表理事

(プロフィール)
アメリカでの外科の専門医レジデント研修など15年の外科医生活、ハーバード大学公衆衛生大学院での学習研究を経て1986年に旧厚生省に入省し、「がん政策」「寝たきり老人ゼロ作戦」を立案。その後、国立医療・病院管理研究所で医療政策研究部長、国立保健医療科学院で政策科学部長。日本医科大学で医療管理学主任教授を経て、2014年に未来医療研究機構を設立。現在、地域包括ケアや21世紀のための新たな医学、公衆衛生学、社会福祉学そして進化生態医学創設に向け研究中。

 

 

 

 

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