「科学的介護推進体制加算」が4月から導入される。その目的はVISIT及びCHASEのデータベースを一体運用するLIFEの普及だ。
科学的介護は「科学的根拠に基づく医療(EBM:EvidencedBased Medicine)」の介護版とよく言われる。
しかしその本質は医療でも始まったばかりの「リアルワールドエビデンス(RWE:Real World Evidence)」にほかならない。
医療におけるEBMは、ランダム化比較試験に基づいて得られるエビデンスから始まった。それまでの医療は「ある患者を診断し、その診断に基づいてある薬を投与したら、薬が効いて治った」という経験則で成り立っていた。しかしその試験の導入で一変する。ランダム化比較試験では「診断のついた患者群をくじ引きで無作為に2群に分け、一方には実薬を投与し、一方には偽薬(プラシーボ)を投与し、群間でその効果を比較する」という方法をとる。そして実薬の効果が偽薬より統計的に勝ったとき「エビデンス」として認めた。それまでの経験的な医療が塗り替えられた。
こうして始まったEBMであるが、2010年頃から潮流が変わる。新たに出現したのが、リアルワールドデータ(RWD:Real World Data)とそれに基づくRWEの出現だ。RWDは診療録、健診データ、レセプトデータ、患者QOLデータなどの実診療行為に基づくビッグデータだ。そして、そこから導き出されたエビデンスがRWEだ。その背景にはデータベース技術の進歩がある。
こうしたRWEにより医療分野でもさまざまなエビデンスが見いだされ始めている。例えば、糖尿病の患者にある種の糖尿病薬を与えた患者群と与えなかった患者群をレセプトデータで比較したところ、与えた患者群に膀胱がんの副作用の発生が多かったというような事例である。
さて科学的介護の立ち位置を見ていこう。科学的介護はVISITやCHASEなどの介護現場でのRWDに基づいている。その考え方は医療におけるRWEと同じだ。データベース上で同じ状態の利用者を群に分けて、ある介入行為とそれによる状態変化を群間で比較を行うということにほかならない。
さらに科学的介護では、これからデータベース間の連結による果実を手にできる。データベースは連結によって情報量が掛け算で増える。医科レセプトデータと介護レセプトデータの連結。そしてそれにLIFEデータベースの連結によって一気にRWDの射程が医療・介護の全域に広がる。こうした科学的介護データベースの発展を後押しするのが「科学的介護推進体制加算」なのだ。
武藤正樹氏(むとう まさき) 社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役
1974年新潟大学医学部卒業、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中86年~88年までニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学。94年国立医療・病院管理研究所医療政策部長。95年国立長野病院副院長。2006年より国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉大学大学院教授、国際医療福祉総合研究所長。政府委員等医療計画見直し等検討会座長(厚労省)、介護サービス質の評価のあり方に係わる検討委員会委員長(厚労省)、中医協調査専門組織・入院医療等の調査・評価分科会座長、規制改革推進会議医療介護WG専門委員(内閣府)