「やってはいけないこと」を教える
国内で新型コロナウイルス感染症が拡大をはじめてから、1年が経過しようとしています。介護現場では新しい職員を迎える時期が近づいてきました。施設・事業所は職員が集合して研修を受けることさえままならない状況で、新任職員を迎える事業者は、新任職員研修の実施方法について頭を悩ませているようです。リモートや動画研修によって3密を避ける研修方法の工夫もさることながら、問題が大きいのは研修内容です。ここ数年、虐待をはじめとする職員の不祥事が増加している中で、目立つのは不祥事を起こした職員がやってはいけないことを教わっていないケースです。
■ルールを知らないことの危うさ
入職したばかりの女子職員が、夜勤中に認知症の女性利用者の髪にリボンを8つ結び、スマートフォンで撮影した画像をブログにアップし懲戒解雇になりました。この職員は、問題が発覚した時に、「悪気はなかったんです」と泣きながら話しました。
また、利用者を虐待してケガをさせ懲戒処分を受けることになった新人職員は、家族への謝罪の場で「介護の仕事を続けたい」と話し、怒った家族は警察に傷害罪で刑事告訴しました。職員は「虐待が犯罪だとは知らなかった」と言いました。
前者の職員は、やってはいけないことをきちんと教わっていませんでしたし、後者の職員は、やってはいけないことの罰則を知りませんでした。
私は以前サラリーマンだった頃、職場に新人が来ると職場での仕事の進め方について、まず次のように説明していました。「仕事でやることは4種類あります。やらなければならないこと、やったほうが良いこと、やらないほうが良いこと、やってはいけないことです」と。新人教育で教えなくてはならないのは、「やらなければならないこと」と「やってはいけないこと」です。新任職員研修では「やってはいけないこと」の教育が不十分になっていないでしょうか?
■どのように教えれば良いか?
私たちは、長年新任職員向けの研修プログラムを提供していますが、重視しているのは「最低レベルの職員をいかになくすか」ということです。研修では次の5項目に分けて、具体事例を挙げて「やってはいけないこと」を伝えるようにしています。
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▼事故防止‥「事故につながる危険な介助は」
誰から見ても危険な我流の介助方法で事故を起こせば、業務上過失致死傷罪という刑事罰で裁かれる可能性もあります。
▼コンプライアンス‥「倫理に反する行為とは」
法律や規則で禁止されている行為以外にも、利用者の尊厳を損なう行為は福祉のプロとして失格ですから、虐待として懲戒解雇もあり得ます。
▼虐待防止‥「虐待行為に対する罰則とは」
暴力的虐待のみでなく放置虐待や性的虐待も、罰則はそのほとんどが刑事罰です。「暴行罪」「遺棄罪」「強制わいせつ罪」ともなれば、最悪懲役刑もあり得るのです。
▼身体拘束廃止‥「身体拘束は介護保険制度で禁止される以前からやってはいけない」
利用者を縛ったり閉じ込めたりする行為は、もともと逮捕監禁罪という刑事罰の対象であり処罰だったのです。
▼接遇‥「接遇はサービス向上だけでなく『接遇ゼロ職員は経営リスク』という側面がある」
接遇ゼロ職員が起こすトラブルは、企業全体の社会的信用を失墜させると共に、組織のマネジメント能力の低さを露呈して経営リスクとなります。
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初めて仕事に就く若い職員ですから、「いかにして能力を伸ばすか」という前向きな研修も大切ですが、社会人として職業人として最低レベルをクリアしてもらうことが先決です。「暗いお話で申し訳ないのですが、あなたのために厳しいことを教えるのですよ」とお話しています。
安全な介護 山田滋代表
早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険株式会社入社。2000年4月より介護・福祉施設の経営企画・リスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月より現株式会社インターリスク総研、2013年4月よりあいおいニッセイ同和損保、同年5月退社。「現場主義・実践本意」山田滋の安全な介護セミナー「事例から学ぶ管理者の事故対応」「事例から学ぶ原因分析と再発防止策」などセミナー講師承ります。