<連載第38回>あすの介護に 佐和子の ハートふるヒント

 

准看護学校でも学んだ認知症の人へのケアの技法「ユマニチュード」。

語源は「その人らしさ」で、「あなたは大切な存在です」と表現するために4つの技法「見る」「話す」「触れる」「立つ」技術を用います。「見る」はその方の視界に入り、目線を合わせて目を見つめる。「話す」は話さない人であっても話しかけ、ケアをしているときは実況中継(自己へのフィードバック)を行ないます。

 

 

私が介護に従事し3年ほど経った頃、特別養護老人ホームに長年勤めていたベテラン職員がスタッフとして加わりました。何に驚いたかというと、跪いて利用者さんと目線を合わせて会話をしているのです。それまでうちのスタッフでそのような対応をしている人はいませんでしたから、利用者さんの表情も今までとはうって変わり、キラキラした表情で話しているように見えました。そもそも人生の先輩方への態度として上から見下げること自体が尊厳とは程遠い行いだったのかもしれません。

 

 

ここから学び10数年、たとえ認知症の方で認識できなかったとしても、視線をつかむために視界に入り、目を見つめて話しをしています。そんな根気が私のどこにあったのかと不思議に思いますが、実は忘れたころに、必ずケアする私たちにとって喜びとなる変化がおきるんです。

 

 

それまで私という人を認識できなかった方が、本当にある日突然認識してくれた、視線がはっきりと合った、お伝えしたことをキャッチしてくれた、と感じる瞬間があります。そう感じた時にユマニチュードの技法にならい根気よく対応していて良かった!と、ここが認知症介護に携わった私達介護従事者の醍醐味だと思います。

 

 

時に忙しさに駆られておろそかにしてしまう時もあるかもしれませんが、腰を下ろして目線を合わせて挨拶をする。このたった1秒の事が毎日できるかどうかで、介護が楽しくなるか否かが変わってきます。業務が忙しくそれどころではないと言わず、1秒の目線を合わせたコミュニケーションを行う事が利用者さんとの信頼関係の構築を可能にします。それによって業務も円滑にこなしていけると前向きにとらえて、ユマニチュードの「見る」「話す」を活用してみるのはいかがでしょうか。

 

 

 

女優・介護士 北原佐和子氏

1964年3月19日埼玉生まれ。
1982年歌手としてデビュー。その後、映画・ドラマ・舞台を中心に活動。その傍ら、介護に興味を持ち、2005年にヘルパー2級資格を取得、福祉現場を12年余り経
験。14年に介護福祉士、16年にはケアマネジャー取得。「いのちと心の朗読会」を小中学校や病院などで開催している。著書に「女優が実践した魔法の声掛け」

 

 

 

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