書評 介護・医療業界注目の一冊
山崎摩耶著
日本医療企画 ¥2,970
今では懐かしい思い出だが、2015年から4年に渡り元衆議院議員の山崎摩耶さんのヨーロッパ視察旅行に同行。各地の高齢者ケアと医療、看護・介護、認知症や看取りの現状を見て回った。今回、この様子が山崎摩耶著「世界はチャレンジにあふれている」(日本医療企画)として出版された。
本書のページをめくるうち、訪問したときの想い出がよみがえってきた。パリの国立緩和ケア・終末期研究所でフォーニエ所長から聞いた「ターミナルセデーション」の話や、ロンドンの認知症施策に携わるダニエル氏の認知症診断率について。日本の認知症初期集中支援チームのモデルになったメモリーサービスの方々の話。日本にはないケアラー法に基づき介護者を支援するケアラーセンターの話。ドイツのホスピスで、若い女性患者が愛馬を病棟の庭に呼んで別れを告げた話。デンマークの農場に併設されたケアファームで、ヤギや菜園に囲まれて過ごす認知症の人々の暮らしなど。
海外に出ると日本との制度比較で新たな発見もある。日本の介護保険はドイツから学んだ。日本では認知症は初期から保険給付の対象に入っていたが、ドイツでは17年介護保険改革によって、ようやく認知症の人にも給付が始まった。またドイツの老人介護士は日本の介護福祉士のモデルにもなった制度だが、最近のドイツでは老人介護士は看護職と教育課程が統合されて、今では日本の介護福祉士とは似ても似つかないものになっていた。
フランスの医療・介護の連携拠点であるMAIA(マイア)では、日本が先行していたケアマネージャーを配置していた。ドイツを訪問したときも日本の地域包括ケア支援センターが話題になっていた。日本の介護保険制度の評価もまんざらではないと思った。
本書を読んで、コロナ禍が終わったらまたジョギングシューズをスーツケースに入れて旅に出たいと思っている。山崎摩耶さんの視察旅行では、参加者の皆さんと一緒に早朝ジョギングするのが、恒例だからだ。朝もやのロンドンのハイドパークやパリのセーヌ川沿いのジョギングが忘れられない。
評:社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役 武藤正樹氏