1987年の国鉄分割民営化から30余年、常に安全性の向上をトップ・プライオリティとして掲げてきた東日本旅客鉄道(東京都渋谷区)。誰もが安心して利用できる鉄道であるために、何ができるか、何をすべきか。支えが必要な人たちをどうしたら守れるか。日々拡充されるシステムや設備の陰には、利用者の声にできる限り応えたい、との〝サービス魂〞があった。
――前編で、乗客へのサービスという主にソフト面における取り組みについて伺いましたが、ハード面でのバリアフリー化も着実に進んでいますね。
JR東日本では、駅ホームでの転落事故防止を重要な課題と考え、2010年からホームドアの設置を積極的に進めています。
21年3月に稼働を始めた京浜東北線川崎駅と中央・総武線市ヶ谷駅を含め、現在JR東日本管轄内で61駅(線区単位では72駅)に設置済みで、25年度までに線区単位でさらに110駅ほど整備し、32年度末頃までには、東京圏在来線の主要路線全駅243駅(線区単位では330駅)を整備する予定です。
また、山手線、京浜東北線、中央・総武線の一部の駅では、ホームにくし状の部材をつけて、可能な限り電車とホームの隙間を小さくしています。従来は渡り板を使用していましたが、これがお客様をお待たせする要因でもありました。そこで、ホームドアに合わせてホームの高さをかさ上げし、くし状部材を取り付けることで段差と隙間を少なくし、渡り板を使わなくても車椅子での乗車が可能になりました。現在山手線の全車両内には、車椅子やベビーカー用のフリースペースも設置されています。
他にも、ホームの内側を示す線を付けた「内方線付き点字ブロック」や車椅子数台を一度に収容できる大型エレベーター、新幹線の車椅子対応座席など、国のガイドラインに合わせて整備を進めています。
昨年10月には品川駅で、視覚障害者の方々に実際に線路に降りてホームの高さなどを実感してもらう体験会を開催しました。このように、ハードとソフトの両面からバリアフリー化に取り組んでいます。

視覚障害者らによる品川駅での体験会の様子(提供 JR東日本)
――佐久間さんが考える「良いサービス」とはどういうものですか?どんな所に仕事のやりがいと難しさを感じるのでしょうか。
鉄道事業にとって一番のサービスは、ダイヤに正確な安全安定運行なのですが、それと並行して大切なのが、お客様のご要望をしっかり聞くことだと思っています。身体に不自由があったり手助けが必要だったりするお客様の不安を少しでも解消するために、たとえば「声かけ・サポート」運動やホームドアの整備をするなど、状況状況でお客様の求めに柔軟に応じていくことが、サービスとして非常に重要だと思います。こうした取り組みをお客様が「良かった」と評価してくださると、モチベーションもぐんと上がりますね。
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全国の交通事業者が推進する「声かけ・サポート」運動(提供-JR東日本)
とはいえ、少子高齢化で、駅係員によるサービスを利用される方が増える一方、駅係員の数は減っています。公共交通機関の使命である安全・安定輸送の提供と、個々のお客様への丁寧な対応との間でバランスを取るのは結構難しくもあります。ですから、業務を遂行しつついかにお客様の求めるサービスを最大限実現できるか、という点が課題だと思っています。
もともと旅が好きだったのでうちの会社に入りましたが、この部署に来て、自分がどれほどお客様の立場に立てていないかがわかった気がしました。様々なお客様のニーズにどれだけ応えていけるのか。ここが難しいなと思います。
ハードとソフトのバリアフリー
――「バリアフリー」を実現するために発信していきたいことはありますか?
「共生社会の実現」というのは非常に大事なことだと思います。鉄道だけでなく社会全体としてのハード面の整備や教育訓練などはもちろんですが、一人ひとりが〝ちょっとした優しさ〞のようなものを持って配慮の必要な人を見守ることができるような形になれば、みんなが気持ちよく過ごせるのかな、と思います。
〝ちょっとした優しさ〞を
私自身も、階段でベビーカーを持ち上げてお手伝いしたことがありますが、そのときに心が温かくなりました。何だろう、手伝われる側だけでなく手伝う側にも、それをすることによって満足感のようなものが生まれるのかもしれませんね。JRでは「声かけ・サポート」運動に力を入れていますが、こうした〝ちょっとした優しさ〞が広がれば、みんなが生きやすい社会になるのにな、と思います。
――それを阻むものは何なのでしょうね。
パラアスリートなどに伺うと、海外では、たとえば階段などで車椅子が進めないとき、自然と周りの健常者が車椅子を持ち上げてくれるらしいんですね。でも日本人は、ちょっとおしとやかというか、まぁそれは優しさなんでしょうが、積極的に動くというより一歩引いて遠慮してしまうところがあるのかもしれません。「余計なお世話じゃないか。こんなことをしたら逆に迷惑じゃないか」と考えちゃうところがあるのでは。必ずしも全否定されるべきではないとは思いますが、こうしたところかもしれませんね。
会社としては、ハードとソフトそれぞれの面から、ご利用いただきやすい環境作りに努めています。共生社会を実現するために、やれる限りのことをやっていくつもりです。
聞き手・文/八木純子