全体リスクの低減に重点

 

他感染症にも共通する基本的対策を

 

図1に、介護施設における新型コロナウイルス感染対策の全体像を示す。実現可能性を鑑み、このうち図中の①〜④を重点領域として解説する。

 

 

 

①スタッフ間感染予防

徹底した感染対策を取る職場でも、バックヤードではつい気を抜きがちだ。これまでにも休憩中やロッカールーム、洗面所などによる職員間の感染事例が報告されている。これらのバックヤード感染対策につき、JEHSOガイドラインでは、「全業種共通項目」の中に下記項目を設けている(表1)。

 

 

 

 

②スタッフを介した利用者間接触感染伝播の予防

施設内感染で最も避けなければいけない事態は、スタッフを介してウイルスが多くの患者に伝播することだ。この事態を避けるためには手や手袋・エプロンなどを介した接触感染予防を徹底する必要がある。

 

予防策の一つ一つはごく当たり前の事項だ。例えば患者1人のケアを終わるごとに手袋・エプロンを交換して手指消毒を行うこと、汚物と清潔物の動線が交差しないこと、などである。大切なことは、パートタイマーも含めた全てのスタッフが無理なくこれらの対策を遵守できるよう、環境整備を行うことだ。

 

例えば多忙なスタッフが処置中のエプロンを付けたまま廊下を歩く、同じ清拭カートに清潔物と不潔物を収納する、などの行為をついしてしまうことがある。ゾーニングを行うことも重要だが、まずは他感染症にも共通する基本的対策の「精度を上げる」こそが重要だろう。

 

 

 

 

③利用者間感染の予防

介護施設において患者―患者間で直接の伝播が起きるとすれば、レクレーションや食事など、多くの患者が集まる場所である。この感染伝播を完全に予防することはできないが、発熱者を隔離することである程度の予防効果が期待できる。

しかし施設の多くの方は認知能力の低下などがあり、これについてはガイドラインで設定はしているものの、遵守は難しい可能性もある。この対策は施設ごとに無理のない範囲で行うことが望ましいだろう。

 

 

強力な消毒薬は不要

 

④環境除染

意外に知られていないことであるが、新型コロナウイルスはノロウイルスなどとは異なり、環境除染に特殊な、あるいは強力な消毒薬は不要である。たとえアルコール濃度が70%に至らない日用品でも、ふき取り+界面活性剤の効果により十分な不活化を得られることが既に知られている(表3、文献2)。

 

 

 

特殊な物質の空中散布や人体に有害となり得る強力な消毒は避け、安価、かつ人体に安全な消毒薬を選択することが推奨される。

 

 

 

最後に

ワクチン導入により、世間はにわかにコロナ克服ムードへと傾いている。しかし実際に一般人にワクチンが提供されるのは数か月先のことであり、現在のところ何ら新たな対策は立てられていない、ということを我々は忘れてはならない。エンデミック期の感染対策で一番重要なことは、幾度も繰り返される感染の波やクラスター発生、厳しすぎる感染対策にスタッフが燃え尽きないことだ。そのためにも

A:あたりまえのことを
B:馬鹿にしないで
C:ちゃんとやる

という感染対策のABCに立ち返り、無理のない対策を取る必要がある。そして、サービス提供者だけでなく利用者もまたリスクを自分事として分かち合い、全体リスクを低減させること。それこそがエンデミック期のwithコロナの在り方なのではないだろうか。

(1)https://jehso.org/guideline/
(2)https://www.kitasato-u.ac.jp/jp/news/20200417-03.html

 

 

東京慈恵会医科大学葛飾医療センター
中央検査部臨床検査医学講座 越智小枝准教授(おちさえ)

医師、公衆衛生修士、医学博士。日本環境衛生安全機構(JEHSO)専門家委員会委員。東京医科歯科大学医学部卒業。2011年の東日本大震災をきっかけに、Imperial College London、WHOで災害公衆衛生を学ぶ。13~17年に福島県相馬市に移住し、現地で医師として勤務する傍ら公衆衛生研究・リスクコミュニケーションを行ってきた。17年より東京慈恵会医科大学臨床検査医学講座、21年より現職。

 

 

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