福島県の山間部にある4町村を対象に、在宅医療を提供する「奥会津在宅医療チーム」(以下・在宅チーム)が昨年夏に結成された。高齢化が著しく、医療的資源が限られる地域の住民を、医師や看護師からなる小集団が支えている。チーム結成後、在宅医療の利用者数が増加を続けており、以前は困難であった自宅看取りのケースも増えている。

 

医師(写真右奥2人)と看護師(左)など、状況に合わせて多職種で訪問する。患者とのコミュニケーションは在宅医療の鍵となる。

 

 

10人体制で高齢者支える

 

福島県会津若松市より西の山間部にある、柳津町、三島町、金山町、昭和村では、東京23区よりやや広い地域に約8000人の住民が暮らしている。その約半数が65歳以上の高齢者だ。

4町村の医療は主に三島町の32床の県立宮下病院が担っており、医師不足が地域の課題となっている。その背景には、地域間での医師数の偏りがある。厚生労働省が2019年2月に実施した第28回医師需給分科会において、地域ごとの医師の偏在の度合いを示す「医師偏在指標」のデータを公開している。3次医療圏(都道府県)別にみると、全国平均の238.3(指標が大きいほど医師数が多い)と比較して、福島県は177.4と低く、全国では44位に位置している。

 

 

福島県は医療を強化するため昨年、地域医療介護総合確保基金を財源に県内の病院を対象に「在宅医療拠点整備事業」を開始した。この事業は、訪問診療の実施や在宅医療に関する調査に必要な人件費、在宅医療の活動拠点整備に必要な工事請負費などを、1病院につき1億3600万円を基準に助成するもの。その事業の一環で在宅チームが発足した。

 

 

在宅チームは、医師3人、看護師4人、ドライバー2人、事務員1人の10人体制。宮下病院の協力で設置された「奥会津在宅医療センター」に所属している。医師及び看護師は、県立医科大学会津医療センターから派遣されている。
訪問診療ではドライバーと医師、看護師など2〜3名の体制で患者宅を訪問する。治療は、住民が以前から利用してきた国保診療所と、患者の身体状況や生活についての情報などを共有しながら行っていく。

 

 

 

高度な医療機器 頼らずに診断

 

奥会津在宅医療センターの所長は、県立医科大学で教鞭を執る山中克郎医師が務める。山中医師は藤田保健衛生大学救急総合内科の元教授だ。

山中克郎医師

 

 

山中医師は、14年から諏訪中央病院に移り、本格的に在宅医療に打ち込み始めた。

「55歳になり引退も視野に入ってきたなかで、医師人生の中でやり残しており、また、これから社会で重要性を増す地域医療に関わりたいと思うようになりました」とその理由を振り返る。

19年に、福島県からの希望で福島県立医科大学の会津医療センターに転籍。奥会津地域で在宅医療に取り組むことになったという。

山中医師は奥会津での在宅医療について、「医療的資源の限られるこの地域は、高度な診断機器を頻繁に用いることが難しく、問診を適切に行うかが鍵となっています」と話す。

 

 

在宅チームの医師は問診を行う際、最初の3分間は聞き手に徹する。その間1~2つの原因に絞り込み、今度は医師がその原因から生じると考えられる症状が表れているか、患者に集中的に質問する、という問診の仕方をする。山中医師は、一般の医師は様々な病気の可能性を考え、様々な質問をするあまり、得られる情報が散漫になり正確な診断ができない場合があると指摘。的を絞った適切な質問で、高度な診断機器に頼らず多くの病気が問診で適切に診断できるとした。

 

 

 

ケアマネら口コミで患者増

 

21年4月時点で訪問患者数は約50人。患者数は増え続けている。
山中医師は、「診察の様子、在宅で看取った患者の例を聞いたケアマネや保健師などからのクチコミによって、在宅医療を希望する人が増えていきました」と話す。

 

 

現在、在宅チームでは4月までに、5人の患者を自宅で看取っている。従来は、医療が受けにくい状況であったため終末期などで濃厚な医療が必要になった場合、入院後に自宅に戻ることなく亡くなる人がほとんどだったという。

 

 

昨年12月から尿路感染症の治療をきっかけに訪問診療を開始し、今年3月末に亡くなった寝たきりの90歳女性患者は、腹痛や血便があり、直腸がんが発覚。
疼痛コントロールを在宅で行いつつ、看取りとなった。
山中医師は在宅で看取ったことで、「親戚が患者に感謝の言葉をかけることができ、患者と家族は非常に満足されていました」と語る。

 

 

 

【奥会津在宅医療チーム概要】
〈訪問地域〉

柳津町、三島町、金山町、昭和村

〈参加医療機関〉
県立宮下病院
県立医科大学会津医療センター
国保診療所

〈チーム体制〉
医師3人、看護師4人、ドライバー2人、事務員1人

〈患者数〉
約50人(2021年4月6日現在)

 

 

スポンサーリンク

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう