≪連載第138回 課題解決!介護事業相談室≫
Q.令和3年介護報酬改定により、介護施設・介護サービス事業所に義務付けられた「業務継続計画(以下・BCP)」について教えて下さい。
A.業務継続計画(BCP)と介護保険事業
令和3年介護報酬改定では、感染症や自然災害が発生した場合であっても、介護サービスを安定的・継続的に提供できることが重要であることから、介護施設・事業所におけるBCPの作成と研修が介護保険事業の運営基準として定められました(経過措置期間3年)。
■感染症発生時に介護サービス事業者に求められる役割
(1)介護サービスの継続
入所施設や訪問事業所においては新型コロナウイルス感染症の拡大時にも業務を継続できるよう、事前の準備を入念に進めることが必要です。また通所事業所においても極力業務を継続できるよう努めるとともに、万一業務の縮小や事業所の閉鎖を余儀なくされる場合でも、利用者への影響を極力抑えるよう事前の検討を進めることが肝要です。
(2)利用者の安全確保
介護保険サービス利用者は、65歳以上の高齢者及び40歳以上の特定疾病のある方です。このような方々は抵抗力が弱く、感染すると重症化するリスクが高まります。集団感染が発生した場合、深刻な人的被害が生じる危険性があるため、利用者の安全確保に向けた感染防止策をあらかじめ検討しておき、確実に実行する必要があります。
(3)職員の安全確保
感染拡大時に業務継続を図ることは、職員の感染リスクを高めるほか、長時間勤務や精神的打撃など職員の労働環境が過酷になることが懸念されます。したがって、労働契約法第5条(使用者の安全配慮義務)の観点からも、職員の感染防止対策とあわせて、職員の過重労働やメンタルヘルス対応への適切な措置を講じることが使用者の責務となります。
「平時からシミュレーションを」
■感染症に係るBCP作成のポイント
(1)施設・事業所内を含めた関係者との情報共有と役割分担、判断できる体制の構築
感染(疑い)者発生時の迅速な対応には、平時と緊急時の情報収集・共有体制や、情報伝達フローなどの構築がポイントとなります。そのためには、全体の意思決定者を決めておくこと、各業務の担当者を決めておくこと(誰が、何をするか)、関係者の連絡先、連絡フローの整理が重要です。
(2)感染(疑い)者が発生した場合の対応
介護サービスは、入所者・利用者、その家族の生活を継続する上で欠かせないものであり、感染(疑い)者が発生した場合でも、入所者・利用者に対して必要な各種サービスが継続的に提供されることが重要です。そのため、感染(疑い)者発生時の対応について整理し、平時からシミュレーションを行うことが有用です。
(3)職員確保
新型コロナウイルス感染症では、職員が感染者や濃厚接触者となることなどにより職員が不足する場合があります。濃厚接触者とその他の入所者・利用者の介護などを行う際は、可能な限り担当職員を分けることが望ましいですが、職員が不足した場合、こうした対応が困難となり交差感染のリスクが高まることから、適切なケアの提供だけではなく、感染対策の観点からも職員の確保は重要です。
そのため、施設・事業所内・法人内における職員確保体制の検討、関係団体や都道府県などへの早めの応援依頼を行うことが重要です。
(4)業務の優先順位の整理
職員が不足した場合は、感染防止対策を行いつつ、限られた職員でサービス提供を継続する必要があることが想定されます。そのため、可能な限り通常通りのサービス提供を行うことを念頭に、職員の出勤状況に応じて対応できるよう、業務の優先順位を整理しておくことが重要です。
(5)計画を実行できるよう普段からの周知・研修
危機発生時において、迅速に行動が出来るよう、関係者に周知し、平時から研修、訓練(シミュレーション)を行う必要があります。また、最新の知見などを踏まえ、定期的に見直すことも重要です。
伊藤亜記氏
㈱ねこの手 代表
介護コンサルタント。短大卒業後、出版会社へ入社。祖父母の介護と看取りの経験を機に98年、介護福祉士を取得。以後、老人保健施設で介護職を経験し、ケアハウスで介護相談員兼施設長代行、大手介護関連会社の支店長を経て、「ねこの手」を設立。