北海道芦別市で 地域の人口減少に対応
社会福祉法人芦別慈恵園(北海道芦別市)の特別養護老人ホーム芦別慈恵園(同)は、2018年に居室の一部を同市第1棟目となるサービス付き高齢者向け住宅へ転換した。人口減少により、入居者の募集と職員の確保が難しくなった地域の実情に合わせ特養をダウンサイジングし、地域ニーズに応えつつ長期的に経営を安定化させることが目的だ。

施設外観
多床室を転換 居室9室確保
特養芦別慈恵園は、多床室とユニット型混合の施設。2階建てで、定員は72名。1階の4人定員の多床室4室を転換、サ高住「さくらハイツ」とした。
さくらハイツは、主に自立から要支援者の入居を想定。単身者向けの居室(約26平米及び約29平米)7室と、夫婦向けの居室(約43.7平米及び約34.8平米)2部屋が用意されており、定員数は11人。月額料金は、単身者向けの居室で約11万円。現在、自立から要介護1程度の10人が入居、いずれも市内の高齢者となっている。
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部屋は夫婦向け(写真のもの)と単身者向けを用意
法人の事業地域である芦別市は人口1万2854人の街。高齢化率は20年時点で47.1%となっている。気候は厳冬期の冷え込みが厳しく、1月の平均気温はマイナス6.6度、同月の積雪は約180㎝に達し、生活の障害になることもある。
「地域の高齢者は、特に冬の除雪と買い物などが問題となっていました」と、川邊弘美施設長は語る。こうした背景もあり、入居者からは「冬の間は高齢者だけで暮らすことが難しく、施設に入居する必要があったが、市内に手頃な施設がなかった。今は、地元で暮らし続けることができ、安心している」といった声が上がっているという。
施設としては、地域の将来を見据え、運営の見直しが必要になっていたという。芦別市は人口減少局面にあり、15年時点で6406人であった高齢人口は、45年には3165人になると予測されている。
特養の待機者数も減少傾向にあることから、ベッド数が過剰になることが懸念された。さらに、職員の確保も難しくなり、従来の規模のままでは、サービスの質に影響を及ぼす可能性があった。
「それに加えて、冬季に高齢者が市外に流出することもあって年間約2億円の介護保険料が市外へと流出している状況でもあったと聞いています」(川邊施設長)。そのような状況を改善するため、16年から、「待機者の状況・市の今後を見据えて」といったテーマの勉強会を、市・道とも連携しながら実施。意見を交わす中で、サ高住への転換という案が生まれた。
総事業費5000万円超
転換が決定した後、施設では新規入居者の受け入れを停止。特養の入居者数を減らしていった。
転換における総事業費は5175万7000円。その内、1148万4000円を国土交通省の「スマートウェルネス住宅等推進事業費補助金」として助成を受けた。
安定収入確保で地域で運営継続
小野省吾まちづくり事業部長は、サ高住としたことで、介護保険収入の面では減収となっていると話す。「一方で、サ高住の収入として年間約1100万円が入り、業務委託費などの各種経費を除いても年間600万円ほどプラスになります。
そして、職員の人件費が抑えられることから、施設全体の収支のバランスはとれています」。また、特養では入居者の入院や報酬改定などにより、収入が変動する可能性があるが、サ高住の場合はそのリスクが少ない。安定した収入を得られる点も経営上でプラスに働いているという。
川邊施設長は、「この地域では高齢者施設の数が限られており、それぞれの施設は住民にとって欠かせないものです。運営の継続性が重要となっています」と話す。地域の実情に合わせて施設を変化させ、安定した経営を続けることが重要であるとした。