本コラムはアカリエヘルスケアカンパニー(横浜市)の髙橋健一社長による「ICT×医療×介護」をテーマとした特別対談コーナーとなる。第7回目は漫画家くさか里樹氏との対談。2部構成となり、前編では介護の漫画「ヘルプマン!」を描くに至った経緯や、漫画家から見る現場の魅力やりがいなどについて語ってもらった。

 

くさか里樹氏

 

 

■漫画家になるまでの経緯

 

――髙橋 これまでの経歴について教えてください。

くさか 高知市内の授産施設で職員として勤務した後、1980年に漫画家としてデビューしました。2003年からは、日本における老人介護を題材とした「ヘルプマン!」の連載を始め、現在はヘルプマンシリーズの「ケアママ!」という漫画を連載しています。

 

 

 

――髙橋 現在の仕事に至る経緯を教えてもらえますか。

くさか 中学2年生のときにある漫画雑誌を読んで、興味を持ったのがきっかけです。しかし、当時は漫画家になることが目標だったため、特に介護業界に興味があるわけではありませんでした。

 

 

 

――髙橋 最初は介護業界についての漫画を描くつもりはなかったのですね。

くさか 一体何を描き続けたいのかわからなくなって漫画家を辞めようか考えた際に、世間的にあまり評価されない仕事で私同様に悩んでいる人を題材にして漫画にしたいと思いました。
そのときに編集者から「介護を漫画にしませんか」と言われて、医療やナースのエンタメ作品はあるのに介護は特にありませんでしたので、取り上げて発信したいと始めました。

 

 

 

■印象的な出来事

 

――髙橋 現場での印象的なできごとを教えてください。

くさか まず、「介護の漫画」と一口にいっても、どのテーマを選ぶのか、難しいと思っていました。例えば、入浴介助や食事介助などの日常的なケアをどのように漫画に落とし込んだら良いかと悩んでいました。しかし、長い時間密着した施設で衝撃を受けました。その施設ではある利用者が入浴拒否をしていて、介護職員泣かせのいわゆる「困難事例」と呼ばれるものでした。認知症で車いすの方だったのですが、拒否が激しかったのです。

 

そこで、「どうして入りたくないのか」理由をしっかり考える、謎解きのような事をやっていました。作戦会議を開き、「お医者さんの振りを誰かがして、絆創膏を取り換えるのはどうか」「むしろ、一緒にお風呂に入ってみたらどうか」という事をクリエイティブに考えているのです。

 

 

 

■介護の面白さとやりがい

 

――髙橋 どのように解決したのでしょうか。

くさか 最終的には「お風呂に入る前に、先にシャンプーをつけて泡立てる」というものでした。実際に泡立てた後に、「頭洗っている途中ですよ、お風呂、入らなきゃいけないですよ」と呼びかけるのです。そうすると、「あ、忘れていた」とそのおばあちゃんは言って、お風呂に入っていったのです。出てきたときは、さっぱりした顔で満足そうでした。

 

 

創意工夫で利用者の満足度向上

 

――髙橋 今の事例を持ってしても、介護現場はとても創意工夫に溢れた現場なのだと感じます。

くさか クリエイティブさや遊び心が満載なところが調査前の介護のイメージと全然違っていました。「なぜ入浴を拒否するのか」と施設の職員が考えたときに、「身ぐるみをはがされて、持ち物がとられると感じているのだろう」などと推測することができるようになりました。「認知症だから」と思考停止で終わってしまうのではなく、「どうしてだろう」という発想で理由を探す、まるで謎解きのようでした。謎が解けたときには感動し、介護をやっていくのには、このような「人間としての力」が必要だと認識しました。

 

 

 

――髙橋 介護の面白さとやりがいを感じますね。

くさか とても簡単にはできない、本当に価値の高い仕事だと感じます。介護という現場を借りて、私自身は自分と向き合い、利用者やその家族、働いているスタッフたちのおかげで描かせてもらっていると実感しています。

〈後半に続く〉

アカリエヘルスケアカンパニー 髙槗健一社長

 

 

スポンサーリンク

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう